Novel SH
□ふたりはいつも
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※異国の響きでお送りします
「サッ寒ィ」
「オ付キノモノハマダ戻ラナイノカ」
「分カラン。キットマダ買ィ物ダ」
「……買イ物」
悪魔は寒いと訴える冥王のために指先に焔を灯し、薪に移してあげました。
悪魔自身はあまり寒いという感情が分からずにいましたが、このクソ広い洞窟の中でしばらく独りでいたので心が寒い、と詩人めいたことを胸に秘めていました。
「ナンダ元気ガナィナ。ソレデモ悪魔カ」
「ソレヲ言ウナラ寒ガル冥府ノ王トヤラモ聞イタコトナイゾ」
「……放ッテォケ」
洞窟に焔のはぜる音だけが響きました。二人が黙り込むと洞窟は全ての音を飲み込み尽くしてしまうようでした。そのことはなによりも二人が一番よく知っていました。
悪魔は体操座りをしながら、ちらっと横の冥王を盗み見しました。彼と会ったのはつい最近のことで、ずっとこの洞窟で闇と孤独と向き合わなければならないと落ち込んだ矢先のことでした。悪魔は感謝していました。少なくとも独りからは解放されたのだから。
恙無い会話を続けていくうちに、彼が冥王がたくさんの者に囲まれて暮らしていることも知りました。
そのことはとても羨ましいことでした。
悪魔は喋る相手が居るという幸せに浸り、慣れない言葉で会話を紡ごうとしました。
「アノ……死神トヤラハ今日アマリ見カケナイナ?」
「嗚呼……戦デモァッテルンダロ……近ィゥチ忙シクナル」
冥王は遠い目で焔の届かない洞窟の闇を見つめました。
「忙シク……イイジャナイカ……スルコトガアッテ……」
私ハナイ……という言葉を飲み込んで悪魔は地面を見つめ俯きました。
この洞窟で何の為に存在し何に生きるかわからない悪魔にとって時とは残酷なものでした。