◇Novel〜2〜
□ヤブ医者様と患者さん
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静かな室内に小さな機械音が響いた。
音源である体温計をシャツから取り出し、オズが確認する。
「……38度………完全に風邪ひいちゃったね」
呆れたように溜息をつくと、オズはベッドに横たわる鴉に目をやった。
う…と、悪戯が見つかった子供のように、鴉は身を縮める。
「まったくもう……いつもパジャマちゃんと着ないで寝ちゃうからだよ?」
「………誰のせいだ、誰の…」
額に張った冷却シートに手を添えて、鴉が苦しそうに言い放つ。
自分が風邪をひいた要因の一つに、オズが夜遅くまで鴉を「事」につき合わせたことが挙げられるのは明らかだった。…もちろん、オズ以外の要因もあるのは確かだが。
「寝てる間もパジャマのボタン外してオレにちょっかいかけてただろう」
「知〜らないっ☆ 夢じゃないの?」
「………………」
鴉の問いかけをターンで軽く流すと、オズは怒りのせいか黙り込んでしまった鴉の頬に軽いキスを落とした。
何の前触れもないそれに、鴉が身を跳ねさせて驚く。
「ん……やっぱ熱い。今日一日安静にしてた方がいいね」
「医者みたいなことを……! …それに、オレがいなかったらお前のご飯や洗濯物はどうするんだ」
「お前は主婦みたいなこと言うよな……」
家事のことを心配する鴉に苦笑しながら、オズは手を腰に当て、もう一方の手を鴉の眼前に突き出した。人差し指を立てて。
「今はそういうの気にせず大人しく寝てろ! これ命令!」
「めっ……命令…?!」
「オレがお前の主として、しっかり看病してやるからな」
「看病…?! い、いい! そんなことしたら感染る!」
オズの二段攻撃をまともにくらうも、しかし鴉はオズのためと言わんばかりに抵抗する。
何度かその応酬が続き、オズが疲れたように大きな溜息をついた。
オズ…?と、鴉が不安げにオズを見る。
「…………ねぇ、ギル……オレ、いつもギルに世話になってばっかでしょ…? だから今回くらいはギルの世話したいんだよ。…お願い、看病………させて……?」
「…………ッ!!」
再び鴉を見上げたその瞳は、飼い主におねだりするような仔犬を彷彿とさせる瞳だった。