◇Novel

□鳴らない携帯電話
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まるでバカみたいだ。一人ぼっちの部屋の中、オズはそう思い、深い溜息を吐く。

そもそも何故、あんな奴に恋なんてしてしまったんだろう。
女の子は、好きだ。一緒に居ても楽しいし、遠くから眺めてても可愛いし。アリスなんかが言える。本当に彼女とは気の合う親友同士だ。まあ、若干横暴ではあるけども。

人間関係に関しては広く浅い付き合いをしているオズにとって、恋愛は無関係なモノだった。そりゃ友人に恋人が出来た時なんかは「羨ましい」とか思った事が何度かある。でも実際に自分に彼女が出来た時なんかを想像してみると「無いな」と至って簡単に結論が出てしまうのだ。勿論、女の子は可愛い。だけど一人の人間を愛し、愛されるなんてオズには到底無理だった。いや、恋人以前の問題だった。たとえ親友でも一線を引いた付き合いをしている彼にとって、その先の展開など到底考えられなかったのだ。

自分という人間を内側からバラして、相手に受け入れられなかった時の事を思うと、怖かった。

否定されるのが、恐ろしかった。

そうだ、自分はそういう人間だったハズだ。なのに、どうしてあんな奴に恋なんて。

ふと、視線を上げると、机の上に投げ出したままの携帯電話が目に入った。
そういえば、とぼんやりと思い出す。在りし日の。
そうだ。あの時は確か、急に頭痛がして自宅で寝ていたんだった。


酷い頭痛だった。こめかみがズキズキして、まるで殴られているような。
その時に限って、すでにジャックは仕事で家を出ており、彼と二人暮らしのオズは自宅に一人ぼっちだった。
ついに耐え切れなくなり、逃げるようにベッドに潜り込んだ。その途端どっと疲れが出て、まるで事切れたかのように深く眠った。

その眠りを覚ましたのが、けたましく鳴るあの携帯電話だった。

その時の事を考えると、今でも笑ってしまう。

寝ぼけた状態で携帯を手にとったオズが最初に聞いたのは、ギルバート先生の怒声だった。


「オズ!!無断欠席とはどういう事だ!!」


そうだった。あまりの痛みに耐え切れなくて、学校に欠席の電話をかけていなかったのだ。
緊急連絡網で、学校の番号を登録していた事を思い出した。


「ごめん・・・先生。声、小さくしてくれませんか?頭に響きます・・・」
「?どういう事だ。具合が悪いのか??」
「頭が割れそうに痛くて・・・」


ついさっきまでカンカンに怒っていたくせに、具合が悪い事を告げたら、とたんに彼は困惑したかのように心配しだしたのをよく覚えている。


「季節の変わり目は風邪を引きやすいからな・・・。辛いか?」
「・・・うん、ちょっとだけ」
「家の人は?」
「仕事で居ないけど・・・。でも大丈夫ですよ。どうにかなるし」
「・・・そうか」


確か、最後に彼は「安静にするんだぞ?」ってしつこいくらい言って、電話を切った。
相変わらず頭痛は酷いし、熱も出てきたようだったけど、ギルバート先生が自分を心配して電話をかけてきてくれたというのが、凄く嬉しくて。初めて風邪を引いてよかったと思った。こんな事言ったら怒られてしまうから、絶対に口には出さないけれど。

あの後すぐに、ジャックが顔を真っ青にして家に帰って来た。どうやら自宅に一人のオズを心配したのか、ジャックの仕事場にギルバート先生が電話をかけたらしく、慌てて飛んできたのだ。

風邪自体もそんなに酷いものでは無かったらしく、オズも2日後には熱が下がり、学校に登校できるようになった。

会ってすぐに先生にありがとうと伝えた。彼はなんだか照れているような、気がした。


もしかして、あの時にはもう、好きだったのかも知れないなと考え、可笑しくなって一人で笑む。


後にも先にも、携帯電話が鳴ったのはその時だけだった。




                 ―鳴らない携帯電話―
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