◇Novel

□バス待ち
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舗装された道路を、その少年は軽快に走っていた。鮮やかな金糸が、風になびく。

朝早いため、通学路には人影が無い。たまに朝練習のある部員が通り過ぎたりするが、それだけだ。
漏れる吐息が、雲になって後方へと流れていく。

やがて、前方に少年の学校が見えてきた。金髪の彼は慌てたように・・・若干転びそうになりながら、校門の近くに無造作に立っているバス停の側に駆け寄ると、スクールバックの中から携帯電話を取り出し、時刻を確認する。

8:12。機械独特の電子文字でそう映る数字を見て、ほっと表情を和らげる少年。よかった。間に合った。口元が、自然と緩んだ。

そうしている内に、また1分。時が過ぎる。
8時15分のバス。そのバスには愛しいあの人が乗っている。


左側からバスが見えてきたことを確認して、彼は下車する人の邪魔にならないよう、その場を離れる。

今では、バスが停車するまでの時間さえももどかしい。少し前までは、まだ時間になりませんように。そう思っていたというのに。今頭の中を占めているのは、早く早く。あの人に会いたい。その想いだけ。

早る気持ちを抑えつつ、ステップを降りてくる乗客たちを眺める。1人2人3人・・・。その人数はだんだんと増える。

永遠にも思える刹那。黒髪に、暗い色をしたスーツを着た長身の男が姿を現す。
彼はいつものようにバスを降り、学校へ向おうと少年に背中を向ける。

その瞬間、少年は待ちきれないと言うかのごとく駆け寄ると、その広い背中に飛びついた。「ギル先生、おはよー!!」

ギルと呼ばれた彼は、いきなりの衝撃によろけたが、すぐに腕を後ろに回し、しがみ付く彼の首ねっこを掴んで引き剥がした。少年の顔を認めると大きな溜め息を一つ。そして憮然とした表情と声色で一言。「オズ。いい加減にしろ」


金髪の少年・・・オズは、むくれたように頬を膨らますと「別にいいじゃん!」と言いながら、彼の腕を引っ張り、自らのそれと絡ませる。


「オレ、毎朝先生のために早起きしてるんだからさ、たまには甘やかせてよ」
「お前が勝手に待ち伏せしてるんだろう」
「ひど!ねえ今日くらい、いいでしょ?お願い!」



お願い、と言いながら離す気などないようなオズの態度に、ギルバートは諦めたかのように抵抗をやめ「校舎に入るまでだからな」と条件付きで腕を組む事を許した。

「やった!」と満面の笑みを浮かべて、ぎゅうっとしがみ付くオズ。この緩んだ微笑みを見ていると、先ほどまではうるさくてしつこくて、どこかへ行って欲しいと思っていたはずなのに。

まあ、いいか。

そんな想いが胸の内から湧き上がってくる。そんな事を考える自分が嫌で、ギルバートは軽くかぶりを振った。




           

                 ―バス待ち―
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