◇Novel

□コトバ
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「あの・・・。坊ちゃん?」


屋敷の外の、人の滅多に通らない場所にある、噴水の縁に二人は座っていた。
無理矢理座らされたギルバートは、その後何も言ってこないオズに、恐る恐るといった感じに話しかけたのだが、それでも返事は無く、ギルバートはうなだれて足元を見てるしかなかった。が、やがて。


「オレ、さっきの事怒ってる訳じゃないよ?」


唐突に沈黙を破った。じゃぁ、なんで?といったように、少し視線をオズへと向けるギルバート。彼は空を見上げ。


「ギルは・・・オレのコト、好き?」


らしくない、遠慮したような声が上から聞こえ、ギルバートは俯いたまま、コクコクと頷いた。

嘘では無い。言えないだけで。

オズもそれを分かっているのだろう。乾いた笑い声が聞こえてきて、ギルバートは怯えたように顔を上げる。

オズは微笑をたたえ、ギルバートの黒髪を軽く撫で、そして言う。


「ん。それだけで充分だよ。『好き』って、無理矢理言わせる言葉じゃ無いもんね。ギルが、オレのコト『好き』って想ってくれるだけで充分幸せだから」


そう言って笑うオズの顔は、どこか寂しげで。充分なんて、嘘なんだ。とギルバートは感じる。

このままじゃいけない。
ボクだって、坊ちゃんの事が大好きなのに。
引いちゃ駄目だ。

じゃあ、帰ろうか!と元気よく立ち上がるオズに、ギルバートは彼の服の端をきゅっと掴み、そして顔を上げる。オズが不思議そうな顔で覗き込んできた瞬間。


「好きです」


オズの瞳をまっすぐ見、ギルバートはキッパリとそう言い切った。
オズは一瞬ポカンとしたが、すぐに慌てたように


「え!?ギル?」


今、何て?と聞きなおすオズを見て、ギルバートは再び、


「坊ちゃんの事が、大好きです」


と、少し恥ずかしそうに。しかし、言葉だけはハッキリした声でそう言った。いまだに動揺するオズにギルバートは縋るようにオズの服を掴み、そして、心の内を吐き出していく。


「・・・坊ちゃんの事が、好きで好きで堪らないんです。でも、屋敷の人達に、付き合ってる事がバレたら、もう坊ちゃんのお傍に居られないでしょう?・・・だから・・・今まで言えなくって・・・っ大好きなんです。坊ちゃん、愛してるんです。・・・っ嫌いに、ならないで・・・!」


後半は、泣き出してしまいそうな震える声。皺が寄るほど服を握り、ギルバートは顔を上げる。オズは、そんな彼を見、うっすらと目尻に溜まった涙を優しく拭い、そして抱き締める。腕の中のギルバートは、細かく震えていて。オズは、安心させるように優しい声色で囁く。


「・・・ん。分かったギル。ありがとう・・・。オレも、愛してるよ。嫌いになんて、ならないから」
「・・・っ・・・坊ちゃん・・・・」


ギルバートもゆっくりと腕を回し、互いに抱き合う。そして、軽く顔を合わせ、二人で幸せそうに微笑む。
そして、どちらとも無く、口付けた。

水面には、一つになった二人の姿が映って、揺れていた。
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