◇Novel

□コトバ
1ページ/4ページ

  

    ―コトバ―













「あの・・・坊ちゃん。入っていいですか?」
「ん?いいよー」


ベザリウス家のある部屋の一室。ノックの音が聞こえたと同時に発せられた声に、オズはにこやかに答えた。
軽い音をたてて開く扉。軽くお辞儀をしながら入ってきた黒髪の従者・・・ギルバートが持っている物に、オズは嬉しそうに立ち上がった。


「また紅茶淹れてくれたの?」
「はい。坊ちゃん、喉渇いたって言ってましたから」


ギルバートはそう言い、ソファーの前の机に紅茶を並べる。ギルバートの前に立ったオズは、嬉しそうに彼の頭を撫で


「ありがと!ギル。大好きだよ〜!」


と言った。ギルバートは俯き、照れた様に頬を染め・・・が、それも一瞬で、次に顔を上げた時には困惑したような、それでいて怒ったような目線をオズへと向けていた。そして、そのとうりの口調で叫ぶ。


「だ、大好きとか軽々しく言わないで下さい!他の人に聞かれたらどうするんですか!!」「
「あはは!大丈夫だよ。誰が聞いたって主従関係の『大好き』にしか聞こえないから!」


笑いながら受け流すオズに、ギルバートは顔を背け、消えそうな声で呟く。


「で、でも・・・もしもの事があって、ボク達が付き合ってることがバレたら・・・」


その言葉に、オズはつと動きを止めた。分かって貰えたのか、とオズへと目線を戻すギルバート。が、オズはその顔に不自然な笑みを浮かべてギルバートの肩をガシッと掴んだ。


「そういえばさ〜。ギルからオレに『好き』って言ってくれたこと無いんだよな」
「へ!?」


そうなのだ。今、オズとギルバートは、紛れも無く付き合ってる仲なのだが、実はギルバートからオズへと『好き』と言ったことは一度も無かった。告白したのはオズの方からであったし、対するギルバートもその時は「ボクもです・・・」と返しただけで、言う機会などは無かった。まあ、その他にも理由的には、付き合ってることがバレたら、オズに大変な迷惑が掛かる。と思ったギルバートなりの配慮だったりするのだが、まさか一度も言っていなかったとは・・・。自分でも驚きである。

パチパチと目を瞬かせるギルバートを見て、オズは満足そうにニッコリと笑みながら、肩に置いてある指に力を込めた。


「だ・か・ら☆たまにはギルから『好き』って言ってよ!」
「えぇ!?」


いきなりの事に、驚いた声を出すギルバート。羞恥で顔を赤くし、目線を斜め下に落とす彼を見て、オズは肩から頬へと手を移動させて自分の方を向かし、そして耳元で囁く。


「言って?ギル」


ビクンッと振るえ、自分の服の端を握っていた手を恐る恐る開き。
そしてギルバートは口を開け。


「い、嫌です!」


そう叫ぶと、ドンッとオズを突き飛ばした。倒れるオズ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ