◇Novel

□闇よりも暗く
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    ―闇よりも暗く―










深夜。青年は月明かりが差し込む窓辺の傍らに佇んでいた。
部屋は全てを覆いつくすような暗闇。その青年も、身に着けている衣類は全てが黒一色で、下手をすると、彼と空間の境界線の区別すらつかない。

コチコチと時計の時を刻む音だけが響く、静かな空間。

青年の顔は、とても扇情的で。それでいて、どこか遠くを見つめているようで。

彼は、右手の羽を握り直した。

と、静かな空間に、キィ・・・と扉の開く音が響く。
青年はゆっくりと振り向き、そこに佇んでいる人物を見ると、途端に苦い顔をした。


「ヴィンセント・・・」


彼・・・ヴィンセントは、にこりと笑みを浮かべながらその部屋に入っていく。彼の持っている蝋燭で、付近が少し明るく照らされる。


「ギル。まだ起きてたんだね」


ヴィンセントは後ろ手で扉をパタンと閉めた。廊下からの光が遮断され、彼のオッドアイが暗闇に浮かぶ。

青年・・・ギルバートはそんな彼を見据え


「・・・何の用だ?」


短く問い掛けた。ヴィンセントは相変わらず微笑を絶やさない。


「おめでとう兄さん。鴉との契約に、成功したんだってね」


褒められているにも係わらず、ギルバートは少しも嬉しそうな素振りも見せず、ヴィンセントにこう返した。


「・・・お前も、眠り鼠との契約に成功したんだろ?」


ヴィンセントは変わらない笑顔で頷く。


「まあ、僕はいつでも良かったんだけど・・・。兄さんは、これでやっと大事な人を取り戻せるね」


ギルバートは、ヴィンセントのその言葉にビクっと振るえ、その拍子に羽が指先から抜けて、床へと落ちて行った。
ヴィンセントは口元だけで笑みながら、ギルバートの傍へと歩み寄る。


「長かったね。もう10年も経っちゃったんだね」
「・・・」
「オズ君の救出準備。大分整ったらしいね」


ヴィンセントは、睨み続けるギルバートの前に立った。そして言う。


「もしかしたら彼、もうアヴィスでチェインに食べられちゃってるかも」
「!違う!ふざけたこと言うな!!」


ヴィンセントのその言葉に、咄嗟に怒鳴り返すギルバート。だが、ヴィンセントは冷たい笑みを浮かべただけだった。


「何が違うって言えるの?アヴィスには恐ろしいチェインがたくさんいる事、ギルだって知ってるくせに」
「!」


ギリッと歯噛みするギルバートを見て、ヴィンセントは嬉しそうに口元を歪めた。
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