◇Novel

□変わらずに
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「そりゃあ、ギルとは昔っからずーと一緒に居るけどさ、常に敬語だったし、呼び方も『坊ちゃん』だったじゃん?まあ、そんなギルも可愛かったけど。でも、やっぱり今『オズ』って呼んでくれる事がオレは何よりも嬉しい」


笑いながら、そう語るオズに対し、言葉を紡ぐほど羞恥で顔を真っ赤にしていく鴉を、オズはそっと抱き寄せ、頬に口付けた。


「オレは・・・オズが望むんだったら、これくらい何とも無い・・・」


頬を赤く染め、ボソリと呟く鴉が愛おしく、オズはぎゅっと彼を抱き締めた。
鴉も大人しくオズの腕の中に納まる。


「まったく、あの頃のギルは、いつも無意識にオレを煽るから、本当に苦労したんだよ?」
「そんな・・・オレは別に・・・」
「やっと恋人同士になれたと思ったら、散々オレとの情事を拒むし・・・」
「っ!だ、だからあれはオズが無理矢理シようとするから・・・」
「でも誘惑してたのはギルの方じゃん」
「してない!」


不機嫌顔になり、フイと顔を背けてしまった鴉を見て、オズは思わずクスクスと笑う。

10年経って、ギルバートは体格も大人のものとなり、見た目も大分変わった。背は高くなり、顔つきも昔の愛らしいものとは異なり、男らしくなった。

でも、このからかい易い性格は変わらず、そのままだなんて。

愛おしい。


「ギル、ギル!」


今だに顔を背けたままの鴉に呼びかけると、不機嫌な顔のまま、鴉は憮然と振り返った。

その顔さえも、とても愛おしくて。
そして、その唇にオズは己のものを重ねる。


「ん・・・」


触れるだけの軽いキス。すぐに離れる唇に、鴉が不満そうな声を上げたのを聞いて、笑みながらオズは、再び彼へと口付ける。
今度は、貪るような、深いキス。


「ん、んっ・・・ふぅ・・・ぁっ・・・」


絡めた舌を解くと、銀の糸が互いの口から伸びる。とろんとした目に変わった鴉を見て、抑えきれない欲望が、オズの中に渦巻いた。

ああ・・・そういえば。
初めてギルにキスした時も、こんな目で見つめられたな、と。

あの時の記憶が脳裏を駆け巡る。

変わらない。
10年前と。
紅茶を飲んで、二人で時を過ごして。

と、ある考えがオズの頭に浮かび、ふっと含み笑みながら


「ねえ・・・ギル」


唐突にオズは呼びかけた。


「坊ちゃんって呼んでみてよ」


それを聞いた鴉は、何を考えているんだと、疑い顔になったが、やがてその名でオズを呼ぶ。


「坊ちゃん」


10年前は、高くて、自分よりも低い位置から聞こえていたあの呼び声。
低い声。上から降ってくる言葉。あの頃とは、正反対で。

でも、その中には、あの頃と同じモノが確かに存在していて。
オズはふっと笑った。


「・・・今は、合わないね」
「当たり前だろう」


呆れたように言う鴉の声が心地よく、オズは目を閉じて、そのまま時に身を任せた。

針の音が、静かに鼓動を刻んでゆく。
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