◇Novel

□鳴り響き
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その日は朝から、しとしとと雨が降り続いていた。
  

    

       ―鳴り響き―













「夕方から雷も鳴るみたいですよ」


使用人たちが昼間話してたのを思い出し、ギルバートは、エイダと読書をしているオズにそう語った。
オズは、え〜!と不満そうに漏らし、窓の外を見ながら


「本を読むのも飽きちゃったんだよな〜・・・」


と、降り続ける雨を恨めしそうに睨んだ。
まあ、朝からこの天気じゃ仕方が無いか・・・とギルバートが思った瞬間


「お兄ちゃん」


突如、エイダがオズの服を引っ張った。


「ん?何、エイダ」


オズが膝の上に座っているエイダに聞くと、彼女は新しい絵本を持って、ニコっと微笑みながら


「今度はこっちの絵本を読んで?」


と言った。邪気の無い笑顔に、オズも釣られて「うん、いいよ」と柔らかな笑顔で返す。
微笑ましい二人に対して、引きつった笑顔になったギルバートは、その表情を見られないように、窓の外を見る振りをしてカーテンに隠れながら、はぁ、と溜め息を吐いた。

ギルバートはオズの事が好きだった。
孤児であった自分を、身分とは関係無く接してくれたオズ。そんな彼と一緒に暮らす内に、ギルバートは友情や信頼とは違った感情で、彼を見つめるようになっていた。そしてその感情が『恋』というものだというのに気付いたのは、そう遅くも無かった。

しかし、認めることは難しかった。自分は使用人で、相手は主人。しかも四大公の一人なのだ。いくらオズが身分とは関係無く接してくれた人だとしても、この恋は決して叶うわけが無いのだ。
友人としてしか、見てくれないのだから。

しかし、何年たってもギルバートの中の想いは変わらず、逆に強まる一方だった。この想いを伝える気はさらさら無かったが「想うだけなら自由」と、ギルバートは思い感じ、そのまま日々を過ごしてきた。何年も、何年も・・・。

振られると分かっている想いを伝えたところで、意味などは無い。


「―――――で、しあわせにくらしました。おしまい」


パタンと本を閉じる音が聞こえ、ギルバートは目線をオズへと戻す。
本は読み終わったのだから、エイダはもう離れただろうという期待を込めて。
だが、希望とは裏腹に、そこには「お兄ちゃん、大好き」と笑うエイダと、その頭を撫でながら「ん。オレもエイダの事、大好きだよ」と笑うオズがいた。
見なきゃよかった。そんな想いがギルバートの中に湧き上がり、同時に目から涙が溢れてきた。


「あれ?ギル?」


どうしたの?と尋ねるオズに「何でも無いです・・・」と短く答え、袖で目を隠しながら、ギルバートは部屋の外へ出て行った。

大好きだよ。

さっき、オズがエイダに対して言った言葉が頭から離れない。
あれは、そんなに深い意味ではないのに。言った瞬間の、エイダの嬉しそうな表情が脳裏に滲み付く。

自分に対して言ってくれたら、どんなに嬉しいんだろう・・・。

自分の中の欲望が膨れ上がってくるのを感じ、ギルバートはキッチンへと向った。
紅茶でも入れて、心を落ち着かせよう・・・と。
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