◇Novel

□ココロの中で
2ページ/4ページ

次に目を開けると、見慣れた天蓋があり、隣に視線を移すと、下着とシャツを羽織っただけの・・・元からシャツは行為中も脱いではいなかったが、その状態で、ヴィンセントは、静かな寝息をたてて寝ていた。
起き上がると、腰に鋭い痛みが走り、再びベッドに戻りそうになったが、何とか堪えて床に投げ捨てられた服を手に取ると、かなりの時間をかけてすべて羽織り、おぼつかない足取りで鴉は部屋を出て行った。

毎日のように行われる、愛の無い情事。ある日突然呼び出されたのはいつだったか。パンドラの事について話し合いが有るから、と呼ばれたはずの鴉はヴィンセントに部屋に連れ込まれ、そのまま無理矢理犯されたのだった。
最初は相手も遊びで抱いたのだろうが、2、3回ほど行為が続くと鴉の感じやすい体質が気にいったのか、ヴィンセントはストレス発散の玩具として、鴉を求めるようになった。
初めは言いなりになるのが嫌で、呼び出しを無視したりしたのだが、するとヴィンセントはわざわざ鴉の家までやって来て、お仕置きだとばかりに散々媚薬を盛り、気絶するまで鴉を犯し続ける。
自分のベッドが汚されるよりはマシだと、呼び出しに素直に応じるようになったのは、そう遠くもないが近くもない。そんな事も忘れてしまった。


「あ!ギル」


家の扉を開けると、そこには見慣れたオズの姿があった。


「オ、オズ・・・」


痕を隠せるようにと巻いておいたマフラーを、更に高く上げながら鴉は驚いた声を出す。
こんな時間まで起きているとはどういう事なのだろうか。
そんな鴉の気持ちを察したのか、オズはひらひらと手を振りながら答える。


「ん〜・・・どうも寝付けなくってさ。アリスを寝かし付けた後、ずっと本読んでたんだ」


鴉はほっと息をつく。バレたかと思ったのだ。


「そうか。でも、もう遅いから少しは寝ろ」


そう言って肩を押す鴉に「あ〜それからね」とオズは笑顔で振り向いた。首を傾げる鴉。


「ギルのことが心配だったんだ」
「!?な、何が」
「だってほら、ギル、ここ最近ずっと会合ばっかでしょ?夜遅いし、彼氏としては可愛い恋人の心配をするべきかなっと」
「か、可愛いとか言うな!」


可愛いと言う単語に異常に反応する鴉にオズは「そういう所が可愛いんだよ〜」と笑いながら彼の頭を撫でる。

その途端、鴉の心が罪悪感でズキンと痛んだ。

そこはさっき、ヴィンセントが散々触った場所・・・。

鴉は、自分がヴィンセントに無理矢理抱かれてることをオズに言ってなかった。否、言えなかったのだ。一番大事な人だからこそ、傷付けるのが怖かった。また、あの光の無い瞳にさせてしまうのが、とてつもなく恐ろしかったのだ。鴉は、今までの呼び出しの事を、すべて会合と言って誤魔化していた。


「・・・ギル?」


撫でても反応の無い鴉を不思議に思ったのか。その声にはっとすると、オズは鴉の顔を覗き込んでいた。


「・・・やっぱり疲れてる?早く寝た方がいいよ?」
「あ、ああ・・・」


殆ど反射的に頷き、汚れた身体を洗おうと浴室に向うと、ふと思い出したように、リビングに戻ったオズに呼びかけた。


「オズ!すぐに出るから、そしたらお前も入れ!」


するとソファーから、え!?と言った声が漏れてきた。


「・・・ギル。それってもしかして誘ってる?」


オズの間の抜けた声の意味に気付くのに、たっぷり数秒はかかったが、さっき自分が言った言葉がとても意味深だった事に気が付くと、鴉は顔を真っ赤にして必死に弁解を始めた。


「っち、違う!あ、あれはただ、こんな遅くまで起きていたらオズの体が冷えるだろうと思っただけで・・・」


すると、あはは!分かってるよー!といった声が聞こえ


「まだヤるの、怖いんでしょ?ギルがその気になるまで待つから」


と笑いながら言った。
何も知らない、オズの言葉が胸に突き刺さる。
あ、ああ・・・と曖昧な返事を残し、鴉は浴室へと消えた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ