◇Novel
□ユガミ
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―ユガミ―
「はあ・・・」
それは何度目かの溜め息。原因はギルバートの目の前に転がっている、解体された人形の群れだ。
「兄さん。どうしたの?溜め息なんて吐いて」
この人形を切り刻んだ張本人・・・ヴィンセントはベットの上で、切り離されたクマの人形の足をぶら下げながら、不思議そうに言った。
それを聞いたギルバートは不満そうに眉をひそめながら
「ヴィンセント・・・人形をバラバラにするのは止めてくれない?」
と言った。
そのギルバートが両手で抱えているのは裁縫箱だった。ヴィンセントが壊した人形を直す為の物だろう。普通こういったことは、使用人の役目のはずだが、このヴィンセントの遊びはすでに仕方の無い事だと割り切ってるらしく、決して係わろうとはしない。やっている事はヴィンセントの不満が溜まらない様に、毎日大量の人形を仕入れているだけであった。
ヴィンセントはギルバートの言葉に分からないと言う様に首を傾げた。
「なんで?そんなに人形が壊されるのは嫌?」
ギルバートは素直に頷く。縫っても縫ってもこの男は、再び端から解体していくのだ。まったくきりがない。
ヴィンセントはそんなギルバートを見て、楽しそうに微笑んだ。
「だって、僕は別に人形を直して、なんて頼んでないんだよ。だから放っておいていいんだよ?」
そうなのだ。別にギルバートはヴィンセントに頼まれて、嫌々裁縫をやっているのではない。
ただ、綺麗だったモノが壊れていく。
それが嫌だったのだ。
そんな想いは、ベザリウス家でのオズが歪んでしまった、あの日の記憶だけで充分だった。もう味わいたくない。
ヴィンセントは遠い過去の記憶に帰っていくギルバートを見て、不満そうに眉をひそめた。自分の兄がこの表情をする時は、大抵あの人のことを想ってる。そのことを知っているから。
ギルバートは再び溜め息を吐くと、足元に転がっている綿の飛び出た一つの人形を手に取った。
「とにかく・・・人形遊びは控えること。分かった?」
裁縫箱を開いて人形の傷口を縫うギルバートを見ながら、ヴィンセントは枕にもたれて考え込んでいた。
どうしたら兄さんの心を取り戻せるのかと。少し離れていた間に、ギルバートの心はオズのモノとなってしまっている。一体何が、ギルバートをそんなに依存させるのだろう。