◇Novel

□甘いモノ
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鴉はこれ以上無いくらいの不機嫌顔だった。原因は、まぎれも無くオズと目の前に並べられているスウィーツだ。何故ならそのスウィーツの形は、なんとハート型だったり、飲み物に至っては一つの容器にストローが二本ささってたりする。
そう、オズが行きたいとねだったのはカップルが入るような、それ専門系のレストランだった。
店内に入ってからその事に気が付いたものの、すぐにカウンターの店員に挨拶をされ、そのまま席まで誘導されてしまい、目の前でこのまま帰ります。とも言えずにそのまま現在に至る。


「最悪だ・・・」
「も〜いいじゃん別に」


ぱくぱくと料理を口に運ぶオズを横目で見ながら、鴉はグチグチと文句を繰り返していた。


「よりによってこんな・・・」
「もう!さっきから・・・。もしかしてギル、オレのこと嫌いなの?」
「え!?」


慌ててオズの方を向くと、オズは俯いて悲しそうに、だから来たく無いんだね・・・と震える声で呟いた。鴉は慌てる。


「ちっ違う!オズのことが嫌な訳じゃなくて・・・そ、その・・・オズは恥ずかしくないのか?」
「え?」
「いや、だから・・・よりによって男と一緒にこんな店に入って・・・オズはいいのか?」


オズは一瞬きょとんとした顔になり、な〜んだ、そんな事気にしてたんだ。と言い、続けて


「うん。嫌だったらこんな店行かないし。ギルだから全然気にしないよ。だってオレ、ギルのこと大好きだもん」


と言い切った。それを聞くと、とたんに鴉は頬を紅潮させて「ば、ばか。変な事言うな・・・」と俯いてしまった。それを見てオズは笑う。


「も〜ギルってばほんと可愛い」
「可愛くない!」
「まあまあ。ねえ、ギル。これ美味しいんだよ!食べる?」


そう言ってオズが差し出したのはコーヒーゼリーだった。これなら甘い物が苦手な鴉も食べられると思ったのだろう。こういう時だけは変に気を使うオズに、内面で苦笑いしながらも、受け取ろうとした瞬間、オズは鴉の目の前にスプーンを差し出した。その上にはコーヒーゼリー。
オズは「はい。あーん」とにっこり笑いながらそのスプーンをぐぐっと差し出す。鴉は赤面したが、主人の望みなので断るわけにもいかず、口を開いて受け取ろうとした。が
ガチ!
空を噛んだ。鴉が口に含もうとした瞬間、オズが手を引いたのだ。本人はあははーと笑っているが、鴉は再び不機嫌顔になり、そっぽを向いてしまった。目線を逸らした鴉に、オズがコーヒーゼリーを口に含んだ姿は見えなかった。


「も〜、ギル拗ねないでよ。こっち向いて?」


それでも、もう付き合いきれないとばかり無視する鴉の姿に、オズは見えないように口の端を上げて笑った。そして、手を伸ばすとオズは無理矢理鴉を自分の方へと向かした。


「おい!なにす・・・んっ!」


鴉の言葉はオズの口付けによって消された。しかも無理矢理に舌を捻り込まれ、呼吸さえも奪われる。


「んっ・・・ぁ・・・ぅぁっ・・・」

堪らず喘ぎ声を漏らす鴉に追い討ちをかけるように、オズは口の中のものを流し込む。そして、それからようやくオズは鴉の唇を解放した。銀色の糸が互いの口から伸びる。


「はぁ・・・オズ・・・」


乱れた息を繰り返す鴉を見ながらオズは悪びれも無く言った。


「美味しい?コーヒーゼリー」


あーんよりこっちの方がいいよね〜と笑うオズに対し、鴉は顔を真っ赤にさせて「どこが・・・」と呟いて、下を向いた。


「あ〜美味しかった!じゃ、行こっか!ギル」


すっかり満足したオズは鴉の腕を引っ張って席を立った。
オズと再び手を繋ぎながら、鴉はそっと、口の中のコーヒーゼリーを噛みしめる。


苦いはずのコーヒーゼリーが甘く感じられたのは気のせいだったのか、それとも・・・――
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