◇Novel
□変わらずに
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―変わらずに―
「ねえ、ギルってさ」
昼食も終わり、そろそろ間食時と思われる刻に、オズは唐突に鴉に呼びかけた。
「オレの事、マスターとか、坊ちゃんとか呼んでたよね」
「?昔はな」
紅茶を入れ終え、オズの座っているソファーの前の机にそれを並べながら、鴉は不思議そうにそう返した。
「ん〜・・・特に深い意味は無いんだけどさ・・・」
そこまで言うと、オズはソファーを軽く叩き、鴉に隣に座るよう促す。黒髪の従者は、一瞬恥ずかしそうに頬を赤らめると、オズの隣に座りこんだ。
オズは満足そうに微笑すると、その綺麗な黒髪を、指先で弄りながら言葉を続けた。
「でもさ、今はオズって呼ぶよね」
当然の事だ。オズを取り戻しても、自分の正体を打ち明けないと心に決めていたのだから。そんな名称で呼んでいたら正体がばれてしまう。
それに自分はもう、ベザリウス家の人間では無い。
それを思い、鴉はコクンと頷いた。そして聞く。
「確かにそうだが・・・それがどうかしたのか?」
「ん?なんか嬉しくってさ」
どういう事だ、と鴉は更に疑問の表情を浮かべる。オズは鴉の心情を察したのか、笑いながら
「何て言うか、お互いに関係が近くなったみたいじゃん?」
と言い、先ほどまで髪をすいていたその手で、鴉の額をそっと撫でる。
こそばゆさに、鴉は目を細めた。