和泉家の事情

□雷注意報
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「降りだしたな」
大学の同期であり、バイト仲間でもある渡瀬の言葉に品出しの手を止め外を見ると、ポツポツと小さな水滴が落ち始めていた。
それは見るまに大きな粒になり、ザァーっと言う音とともに窓ガラスの向こうが歪んで見える程のどしゃ降りになった。
在庫室に置いてあったビニール傘を出すと、コンビニに駆け込んで来た数人が我先にと買っていく。
雨足は益々酷くなる一方だ。
バイトが終わるまで後二時間、俺は祈るような気持ちで真っ黒な雨雲を見つめた。


台風が近付いてるのかと思わせるような雨のせいで客足はパタリと止まった。
「爽一さぁ、なんで女作んねぇの?」
掃除や商品整理など一通り終わらせ、暇を持て余した渡瀬が尋ねてきた。
女好きの渡瀬は暇さえあればコンパに行っている。
俺も高校まではよく渡瀬とつるんでナンパや合コンに行っていた。
その俺が急に付き合いが悪くなったと渡瀬には度々文句を言われている。
「お前だって彼女いないだろ?」
そう言うと、渡瀬は不満気な顔をした。
「俺の事は放っとけ。あ〜あ、俺もお前みたいに顔が良けりゃなぁ」
「何言ってんだか」
笑って返すと、渡瀬は思いの外真剣な顔をしていた。
「俺に寄ってくる女は大概、爽一目当てなんだよなぁ。仲良くなった途端、爽一に会わせろって言って来やがるし」
ハァッと渡瀬が大きく溜め息を吐いた。
と、同時に爆音が鳴り響いた。

「うわっ!ビックリした。今の絶対落ちたな」
渡瀬がじりじりと窓から離れながら呟いた。
外は夕方4時半とは思えないほど暗くなり、時折雷鳴を響かせながら切れかけの蛍光灯のようにチカチカと光を放っている。

それを見ながら俺は小さく息を吐いた。
俺が帰るまでは鳴らないで欲しいと願った雷鳴は、力一杯鳴り響き出した。
一人家にいる勇哉を思い不安が膨らむ。勇哉は大の雷嫌いだ。
今頃一人で恐怖に耐えているのかと思うと可哀想で仕方無い。
バイト終了まで後30分。俺は5分置きに時計を見ていた。


「じゃあな!」
合コン付き合えよ!と背中の渡瀬の声を無視して5時きっかりに俺はコンビニを飛び出した。
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