‡長編小説‡

□第7楽章−愛してる−
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この日、得る事の出来たものは僕のピアノ以外の物への考え方を大きく変えた。
いくら鬱になる時間が減り考えが前向きになり始めていたとはいえ、まだまだ外へ出る時間も、自分から人に会いに行く事も避けていた自分が、
時間さえ有ればなるべく外へ足を運び、少しでも多くのモノを見、吸収し、人へ対して笑顔を向けようとするようになったのだ。

亮介や恵にばかり頼り、甘えていた自分を辞め、自分の意思で何かを得るためにアンテナを張る事にしたのだ。

すると、驚く程小さくとも沢山の事を知り始める。
それは恐らく、今までの自分では知り得ない事ばかりだと記憶の無い僕にも良くわかった。

この島にはリズムが有る。全ての人々がリズムを感じて生きている。三線や島唄は勿論、自分の中に音楽を持たない人でさえ、何かしらのリズムを感じて生きている。
それは大地のリズムや風の唄とでも言おうか?
そんな言葉は、おおよそ自分らしくもないのだが、何故か心底そう思えていた。
こんな思考をこの僕に与えた事そのものが、この島の持つ不思議な力だとも言えるだろう。

「政司さん、よく笑うようになった。」

恵とも暇さえ有れば外を散歩していて、
お気に入りは、この島の1番の魅力でも有る海を見渡す道だった。
海を見ると、この海のどこかには本来の僕を知る人達が居るのか…と、思え、気分が悪くもなっていたが、それも最近は少なくなったと、彼女はそれは嬉しそうに笑ってくれた。

人間は、嬉しい時、こんな顔をするのだな、と学べるようなその笑顔は、
咲き誇る花々と並び、この島を彩る憂いのようにさえ感じた。



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