‡長編小説‡

□第六楽章−音遊び.2−
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そんな後の0.5をつかめた時の記憶はそれは楽しい色を持って残っている。
あの日はあらゆる音楽を堪能したかのような満足感を味わった。


「明日はお客様が沢山来るから、ご馳走を作らなくちゃね」

前日の夜、食器を片しなさい。と、僕と亮介に睨みを効かせた恵が、楽しそうに言うのを小耳に挟みながら、
月の光の差し込む居間を後にし、僕はその先の台所で食器洗いに勤しんでいた。

いつもは実に上手い口実でそれを免れる亮介も、この日は僕の横で鼻唄を唄いながら食器を拭いて片していた

「……ごめん、明日って何の日だっけ?」

僕の聞いた彼等の誕生日ではなさそうなので、記憶違いなら申し訳ない。と、思っての謝罪の言葉だった。
すると、亮介が、手を休め少し不服そうな顔で言ったのだ

「ひでぇな…言ったろ?俺の誕生日だ。」

僕は驚いてそれは慌てた。洗い物の手を休め、何も言えずに、また謝った。
おかしい、先日聞いたばかりで記憶違いとは…。そう思うと、ますます決まりが悪く感じてならない。
しかし亮介は横で、くっと、小さく喉を鳴らすと笑い、
「いや、嘘だ。」
などと、信じられない程あっさりと嘘を告白した。

やられた。
こんなに申し訳ないと感じた自分の心を宥めてやる事にしよう。
そして僕は亮介を横目に睨み言った

「前から言おうとしてたんだけどね……
亮介の場合、もっとデリカシーってモノを覚えた方が言いと思うけど……?」

「…ほぉ、そうかい。じゃあ言わせて貰うがなぁ、政司。お前最近少しばかり態度がデカクないか?」

僕の発した叱咤に、憎まれ口で応戦の亮介。

そのうち、食器洗いは知らぬ世界の事となり、僕らは止まない口喧嘩に興じた。

互いを罵る言葉も出すが、それは何とも心地よい時間なのだ。


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