‡長編小説‡

□第五楽章−音遊び.1−
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その頃から頻繁に行った、子供達との音遊びの話しをしておきたい。
それはこんな感じだった。

「政司ニィニィ、キラキラ星!」

子供達は突然、家に押しかけて来ては、縁側から上がり込みピアノの周りに群がった。
もっぱらの人気曲は、モーツァルトのキラキラ星変奏曲だ。
元の曲は言わずと知れた「キラキラ星」だが、これがフランス民謡で「あぁお母様聞いて」ていう事を知っているだろうか?
そして、なんと内容も娘が母に恋の話しをする立派な恋歌なのだ。
始めて知った時は僕も面くらい、
幼少の頃より素晴らしき恋愛教育を受けて来たのだな、と苦笑したものだ。

「解った。じゃあモーツァルトのキラキラ星だ。…解ってるね?まずはいつも通りに歌うんだよ?」

僕は始めに、片手だけで普通のキラキラ星を弾いてみせる。
子供達はいつも通りに歌い始めた。
歌…と呼ぶにはまだ語弊の有る張り上げた元気な声で。
「ド.ド.ソ.ソ.ラ.ラ.ソ〜!!」
そう、僕は子供達に、始めの一回は歌詞ではなく、ドレミで歌うよう言って有るのだ。
それは少しでも音と言うものを感じて欲しいからだ。

モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」は、出だしは普通にキラキラ星のメロディだが、回を増すに連れ、音は増え曲は変化と展開を迎え、それは可憐で美しい旋律のピアノ曲になる。
流石は誰もに愛されるモーツァルト。
彼を天才と思わない者はいないだろうし、
彼の曲を嫌いになる者もいないとすら思う。

さて、僕は1コーラスをドレミで歌わせ、
2回目からは本来のモーツァルトを弾き始める。
ので、この2回目で子供達は多少アレンジの入ったメロディに合わせ普通に歌詞を歌い出す事になる。
「キラキラ光る〜…」
ごく普通に歌う事が終わると、僕は一端、鍵盤から手を離し、立ち上がると子供達に向かい綺麗にお辞儀をしてみせた。

「それでは、僕の演奏をお聞き下さい、王子様、お姫様」

そして、聴き入る子等を横目に僕は、ピアニストとして、モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」〜<あぁお母様聞いて>による12の変奏曲〜
を弾き始めた。


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