‡長編小説‡

□第7楽章−愛してる−
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「そうかな…自分では余り上手く笑えている自信も無いけれど……」

僕は、相変わらず本音を上手く話せない自分の台詞を途中でとぎると、
…でも、そうだな
と、付けたして、続けた。

「話していた相手がね、嬉しそうに笑って返事をしてくれたのを見ると、少しは上手く、笑えているかも…と、さすがに思うよ。」

少しづつだけれど、言葉も上手に紡げている自分に気が付き、僕は、自信の付き始めた笑顔を彼女へ向ける事が出来たのだ。
すると彼女は、ウフフと笑い返す。それは羨ましい程に自然で、この島を流れる爽やかな風にすら思えたのだ。
僕は、そんな彼女の笑顔が愛おしかった。
いや、きっと誰しもがそんな彼女を愛しているのだと解った。

それに見惚れる時、
必ず僕の脳裏を過ぎる旋律が有った。

そうだ。

僕はその日、その旋律を奏でたいと思いついた。
僕の奏でるそれを聞いてもらいたい。

記憶の無い自分。
不安定な想い。
声に出して何の本音も語れない…。
それでも、目一杯の想いを込めて奏でるのは、許されるのではないだろうか…?

そんな気がして、この日僕は、彼女にそれを聞いてもらいたくなった。

「恵、家に戻ろうか?」

「……?構わないけど…今日はいやに早いわね?」

僕の急な申し出に、彼女は少々訝しそうにこちらを見据えた。



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