頂き物

□永久の契り
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「黒田…さま…」

「私室で男と密会か?」


ヒュッ、と喉が鳴ったのが自分でも分かる。
全身から血の気が引いていく。
なぜ此処に黒田がいるのか。
怒り狂いもせず静かに問いただしてくることが逆に絶対的な恐怖を与えてくる。


「此処で抱くのも最後だと思い来てみれば…、儂の目を盗みこのような下衆と駆け落ちでもする気であったか!」

「誤解で御座います!この者は私の世話係ゆえ、用を申し付けようと呼び出したまで…っ」

「黙れ!!」


怒号が響き渡り、黒田は懐からキラリと光るモノを取り出した。
それが、小太刀であると認識したときには、黒田は時雨に飛びかかっていた。


「時雨…ッ!!」

「く……ッ」


身体が震える。
刀の切っ先が時雨の首へ着実に伸びる。
無意識に動いた身体に従って、菖蒲は黒田を突き飛ばした。


「この…アバズレが…!」

「菖蒲ェ!!」


時雨の声を聴いた。
刹那、



パッと飛び散る鮮血。




胸に灼けるような痛み。




後ろに傾く自身の躯が時雨の匂いに包まれて、菖蒲は満足そうに笑みを零した。


「菖蒲…ッ、おい聞こえてるか!?」


庇うように手を広げて自身の目の前を遮った菖蒲をしっかりと抱き締めて、時雨は虚ろな瞳に呼びかける。
時雨の声に反応し微かに瞳を震わせた菖蒲は、ゆっくりと瞼を押し上げた。
至近距離で時雨の切羽詰まった表情が窺えて、嬉しさと愛しさで胸が埋まる。
舌打ちをしてその場を去った黒田など、どうでもいい。



あぁ、やはり自分はこの男に恋をしている。


「夢が…叶ったよ……」

「喋るな…っ」


傷口から止め処なく溢れる血を手で押さえて、時雨は一層強く抱き込んでくれる。
死を予感させる寒さも、気にならなかった。

自然と流れる涙をそのままに、時雨へと手を伸ばす。


「最期は、あなたに抱かれたかった…」


伸ばした手は、大きな手で包んでくれる。


「その夢が、やっと叶ったんだ…」


穢れきった自分に、迷うことなく触れてくれる。


「…愛しています、貴方を」

「あ、やめ……」

「ずっと、あたしの全てだった」


本当だよ。
あなたがいたから、何があっても平気だった。


「ねぇ、もし生まれ変わることが出来たら…、また、あたしを見つけてくれるかい…?」


もう翳んだ視界の向こう、潤んだ時雨の瞳が見開かれる。
それから、唇を噛み締める姿も。




「莫迦やろう…っ、当たり前だ…」

「…………ッ」

「どんな姿になっても見つけ出す。必ず…っ」




もう、顔は見えなくなっていたけれど。




「ありが…とう…」




死ぬことは怖くない。
この腕があれば。
この温もりがあれば。


ありがとう。


あなたの存在があたしを生に繋ぎ止め、色を与えてくれた。


今までずっと、愛した人。


そしてこれからも、愛する人。




「ま、たね……」


「あぁ…。おやすみ」






震える声を聴いて、意識を手放した。



また、必ず――。






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