頂き物

□今までも、そして、これからも
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「今度は二人で酒酌み交わしてェよな」

ボーッと思いを馳せていたら、いつ着いたのか、真選組が毎年行う花見会場に来ていた

以前、万事屋VS真選組で花見の場所を奪い合ったことがある所だ。

「また自販機の上で野宿は勘弁だな」

銀時と呑み比べをした時、気付いたら自動販売機の上で寝こけていたのを思い出して土
方は顔を顰める。

「今度は俺が介抱してやるから安心だろ」
「…フン、一緒になって潰れてただろーがテメェも」

お互いに顔を見合わせて、笑った。




それから銀時は、土方を色々な所へ連れ回した。
よく落ち合う居酒屋や、銀時が行きつけの甘味屋。

全て二人に所縁の場所ばかりで、土方を懐かしませる。
同時に、懐かしむだけの時間が過ぎているのだと、妙に感傷的な気分にさせられた。





「最後はやっぱ此処だよな」

もうすっかり夜の帳が下りて、通りを歩く人もまばらになってきた頃、銀時が土方もよ
く見知った場所で歩みを止める。

顔を上げれば飛び込んでくる『万事屋銀ちゃん』の看板。
自分でも気付かぬ内に、土方はほぅ、と安堵の息を付いた。
この場所が、銀時の隣が、土方の安息の場所だった。
決して完全に気を緩めることはないけれど、彼には幾度となく助けられている。

「今日は特別席、用意してあんだ」
「…なんだソレ」
「あそこ」

そう言って銀時が指差したのは、万事屋の屋根。
よく見れば二階の通路から屋根にかけて、鉄製のはしごが掛けられている。

階段を上がっていく銀時を、咥えていた煙草を揉み消して後を追った。

「足、踏み外さねェようにな」
「誰がンなヘマするか」

さっさとはしごを上っていってしまった銀時は、からかうように上から声を飛ばす。
フンと鼻を鳴らした土方は、安定感のないはしごを物ともせず上がっていく。
あと少しで上りきる、そう思ったとき。





「ひじかた」





頭上から降る、己の名を呼ぶ声。
踏み外さないようにと足元を見ていた顔を上げると、銀時の指が顎を捉えて少し引き上
げられる。
苦しくて伸び上がれば、むちゅ、と唇に柔らかい感触。
不意打ちの口付けに瞠目した土方の目に、眼光柔く微笑む銀時が映った。
ぐ、と腕を引っ張られ屋根に乗り上げる。



「誕生日おめでと、土方」



触れた手は温かく、触れられた頬は熱く。


「生まれてきてくれて、ありがとな」


土方を包む声は、蕩けるように甘かった。



「……くせェ科白」
「ハハッ、俺も思った」

潤んだ瞳を悟られないように逸らして銀時の隣に座り込む。

銀時と想いが通じ合ってから、土方は幾度となくこの場所を訪れた。
仕事が忙しくて正確に言えば来れない日数の方が多いが、真選組とはまた違う、土方の
居場所となっている。
銀時の隣は心地好くて、うっかり絆されそうになったことも多々あった。
時には言い合いをして、時には愛を囁き合った。
杯を酌み交わしたこともあったし、他愛もない話をして笑ったこともあった。

脳内で爆ぜる思い出の数々に土方は目を細める。
いつ死ぬとも限らない生活を送っている自分が今日まで銀時と共に過ごせたことに、尊
さを感じた。

「お前にしちゃ気の利いた祝い品じゃねェか」
「あ、プレゼントって分かってくれた?」

パッと顔を輝かせる銀時は子供の様。

「誕生日にこんだけ連れ回されりゃな」

こんな誕生日は初めてだ、と言えば、銀時は頬を掻いて苦笑する。

「いやー何にすっか迷ったんだけどよ、俺が伝えてェこと表すとしたらこれしかねーと
思ってな」
「?なんだよ」

改まって言うような事なんてあっただろうか。
小首を傾げて問うと、

「あ、その仕草かわいい」

と、ふざけた答えが返ってくる。

「シメるぞコラ。早く言え」

焦らされると逆に不安になるというもの。
急かす土方に銀時は一つ咳払いして、改まった口調で話し始めた。

「ガラじゃねーのは百も承知だが、聞いてくれよな土方くん」
「……………」

知らず知らず息を呑み、銀時に向き合うように身体を動かす。

「俺ァ碌な生き方してこなかったから、恋愛も碌なモン出来やしねーと思ってた」
「…俺だってそうだ」
「うん。そんな俺たちが出会って、今日まで一緒に居られたのって凄ェと思わねー?…
だからよ、」

一度言葉を切った銀時の腕が伸びて、土方の両腕を引っ張る。
衝撃に備えて咄嗟に目を瞑った土方だったが、ぬくもりを感じてそっと瞼を押し上げる




視界いっぱいに広がったのは、月の光を背にして輝く銀色。
神秘的な情景に一瞬呼吸を忘れて魅入った。





「今日まで俺と居てくれてありがとう。…これからもよろしくな」




「ぎ…ん…とき…」




潤み始めた瞳。
瞼に啄むようなキスを落とされ、今度こそ涙が零れた。

「……ッ…」

「土方…」

「…ッ保証はできね…けど…!」

「ん?」

流れた雫を拭われて土方はぐ、と涙を堪える。
目眩がしそうなほど甘い声にうっとりしながらも、先を促されて口を開いた。


「保証はできねェけど…っ、俺も、一緒にいたい…」

「!…当たり前だろ」


最後は蚊の鳴くような小さな声だったが、銀時にはしっかりと聞こえた。
耳まで赤くなった土方を抱き込んで、銀時は喜色を滲ませて言う。
土方も、銀時の腕の中でそっと微笑んだ。






たまには思い出を振り返るのも良い。


これからを大事にしようと思えるから。


来年のこの日も、銀時と共に居たい。


土方は銀時の匂いに包まれながら、そう思った。




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