愛色
□第一話
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【side金時】
俺は本気で何かを欲しいと、手に入れたいと思ったことがなかった。
それは物だけではなく、人に対しても言えることで。
物だろうが人間だろうが、執着したことなんてなかったんだ。
だって執着する程、大切に思えない。
欲しいと思えるモノがない。
ましてや『愛』だの『恋』だのなんて、どうでもよかった。
そんな俺を知ったヤツらは「冷たいヤツ」と口を揃えて言う。
だが、彼は違った。
彼はそんな俺を知ると『可哀想』だと言った。
『お前は愛されたことがないから、愛し方が分からないんだ』
初めは、何言ってるんだ、そう思った。
だって俺は歌舞伎町でNO.1のホストだ。
「愛してる」
そんな言葉、毎日客の女たちから腐る程聞いている。
逆に俺も「愛してる」なんて言葉を毎日のように口にしていた。
まぁ、その言葉に俺の気持ちが入っているかどうかは別にして。
とにかく、俺が「愛」を知らないわけがない。
仮にも俺は愛を売る『ホスト』という仕事に就いているのだから。
俺がそう言ったら彼はまた「可哀想」と言った。
正直ムカついたし、反論したかったが、彼の悲しそうな瞳を見ると俺は何も言えなかった。
そして、反論の代わりに出てきた言葉といえば。
「じゃあお前が『愛』とやらを教えてくれよ、ヒジカタクン」
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