我が臈たし悪の華

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スネイプ教授に楯突いた一年生、あのブラック家の末娘、闇祓い省で育てられた………ライジェルにまつわる噂は今日もよく飛び交う。ともすればハリーへの囁きより数のあるヒソヒソ声をひとつも意に介さず歩く横顔をハリーは密かに格好よく思っていたのだが、今ばかりはその澄まし顔が恨めしい。
飛行訓練の授業でマルフォイと一悶着しているとき、ライジェルは徹頭徹尾傍観の構えだった。マルフォイがネビルに絡んだときも、ハリーに突っ掛かったときもだ。
与えられた課題を余さず完璧にこなしてきた彼女は箒の扱いもバッチリで、ふよふよと低空飛行を維持していた。マルフォイを追ったハリーが高く舞い上がっても、地面から少し浮いたところで目をきらきらさせていただけだ。ハーマイオニーはライジェルにハリーを咎めて欲しかったようだが、ライジェルは自在に箒を操るハリーにはしゃぐばかりで注意なんてしそうもなかった。かと行ってハリーを助けるでもなく、成り行きを見ていた。
ライジェルは特急の中でマルフォイを追い払ってみせたのだから、彼女が何か言えばマルフォイも大人しくなったかもしれないのに──とハリーは眉を寄せる。
きっとライジェルはハリーがやったくらいには箒を乗りこなすだろう、と。

早足のマクゴナガル先生に着いていきながら、一緒に連れ出された彼女の澄まし顔を見て恨めしく思うのだ。




*



オリバー・ウッドに紹介され、ハリーはぽかんとしたままトントン拍子に進む話を聞いていた。

「ミス・ブラック。あなたから見てどうでしたか?ポッターは」
「素晴らしいの一言に尽きます先生。私はとても優秀なシーカーの箒さばきを知っているけれど、流石の彼も初めてであんなことは出来なかったでしょう」

ハリーが漸く事態を飲み込む頃には、ウッドが査定するようにハリーの全身を見たり、詳細をライジェルに尋ねたりしていた。ライジェルは我が事のように得意顔でハリーが如何に飛び抜けた才能の片鱗を見せたか語っており、マクゴナガル先生も頷きながらそれを聞くものだから、段々恥ずかしくなりついにはライジェルの口をてのひらで隠した。

「あの角度で滑空するとなると体重の置き所が難し、もががっ」
「──も、いい!いいから!」
「むー…」

渋々といった様子で黙ったライジェルがハリーを振り返る。ハリーは首を横に振った。本当にもういい。

「ブラックにはポッターをサポートしてもらいます。ポッターは初心者ですから、不慣れなことばかりでしょう。ルールの説明、プレイスタイル……あなたに一任します」
「それなら、彼女もチームの練習に?」
「どうしますかブラック。参加するかしないかは貴女の自由です」
「ん、しません」
「そうですか……」
「…先生ったら、来年に向けて私にも仕込みをする気でしたね?」
「ポッターの補佐をするだけで十分な"仕込み"です。が、それを理由にたまにでもチームの中に入っておけばと」
「見取り稽古でも結構」
「貴女ならそう言うような気はしていましたよ」

マクゴナガル先生が肩を竦める。頭の整理が追い付いていないハリーだが、ライジェルが協力してくれるというのは心強かった。張り詰めていた呼吸が少し楽になる。
マクゴナガル先生はハリーに練習をさぼらないよう念押しすると、俄に笑みを浮かべて言った。

「あなたのお父様がどんなにお喜びになったことか。お父様も素晴らしい選手でした」

ぱちぱちと瞬きを繰り返したハリーの胸に、ぶわりと熱いものが込み上げる。言葉に出来ず何度も頷いたハリーは頬を紅潮させ顔中に喜色を浮かべている。

「ポッターの父上か……」
「ご存知?ウッド」
「話は聞いたことがあるよ。優秀なチェイサーだったって」
「そうよ!スピードが持ち味で最高にキレキレなクイックターンで敵をかわす最強のチェイサー!シーカーも任せられるくらいのスピードだったんだから!」
「ライジェルもっと詳しく父さんの話を聞かせて!」
「どうどう、OKハリー。おじ様はね…」

ハリーの父親の話を、ハリーと共にしばらく聞いていたウッドは、ふとあることに気がつき首を傾げる。

「ねぇ……ブラック、どうしてそんなにポッターの父上に詳しいんだ?本人だって、その、君より知らないみたいだし」
「ハリーがご両親のことをあまり知らないのは彼がマグル界で育ったからなのよ。私は魔法界にずっといたし、私の後見人はおじ様とは同級生だったからたくさん話を聞かせてもらったの」
「ああ、噂の闇祓いの後見人か…」
「ブラック、彼女はお元気で?」
「はい先生。変わりなく忙しく、変わりなく厳しいです」
「それはなにより」

ウッドの横槍やマクゴナガル先生の懐かしげな声に答えていると、ハリーが「もっと」と言わんばかりにライジェルのローブを引っ張ったので、三人は声を合わせて笑った。



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