我が臈たし悪の華

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「「ヘイ、何処に行く気だレディ?君の席はこっちだぜ」」


何処に座ろうかとテーブルの横をゆったり歩いていたライジェルは、突然首根っこを掴まれたかと思うとあれよあれよと二人の男子生徒の真ん中に座らされがっちり両腕をホールドされた。
左右に首を振ると、同じ顔がにやにやと笑っている。汽車で会ったロンの双子の兄たちだ。

「まさかブラック姓とはな。流石に俺たちも予想してなかったぜ」
「ブラック家は全員残らず"名前を言ってはいけないあの人"の配下なんじゃなかったのか?」
「水くさいぜスモールレディ。知ってりゃ盛大に騒いだのに」
「まぁ何はともあれ」

「「ようこそグリフィンドールへ」」

口を挟む隙は一瞬も無かった。色々と言い返したかったが、「騒がれるから黙ってたのよ」とだけ言っておいた。
ちくちくとあちこちから視線を感じるものの、ライジェルは尽くそれらを黙殺し、ジョージとフレッドの雰囲気に乗ることにした。今のライジェルにはこの喧しさが心地好いのだ。あれこれと考えずに済む。

「ロンはたぶん何となくわかってたはずよ。マルフォイよりヤバい家なんて、レストレンジかブラックかって話だもの」
「君はヤツのスパイだったりするわけ?」
「スパイが馬鹿正直に本名名乗ると思う?」
「スパイじゃなくても馬鹿正直にブラックは名乗らないな。世間の目は厳しいぜ?」
「はん。私はこの血にも名前にも誇りを持ってるわ。好きに言わせておけばいいのよ。そんなものに私のプライドは汚されないもの」

「「いいね、気に入った」」

「あなたたち普通に私とお話ししてるけど、なんかもっとこう…ないの?」
「俺たち馬鹿だから」
「疑って安全を保つより信じて裏切られたほうがマシだと思ってるのさ」
「あら素敵。ところでどっちがフレッドでどっちがジョージ?」

右側が「俺がフレッド」と言えば左側が「俺がジョージ」と続ける。ライジェルは右を指差すと「なるほど、こっちがジョージ」と頷いた。

「おいおい、そこは信じるべきだろお嬢さん」
「あらぁ、弟に言われるくらい悪戯っ子なあなた達ならきっと私をからかうために逆を言うだろうって信じたのよ」
「これは一本取られたな」
「ロンのやつ余計なことを」

そうこうしているうちに組分けは進み、少なくなった新入生の中に不安げな面持ちのハリーを見つけたライジェルは双子の顔を交互に見るとにこりと笑った。

「"ブラックをとった"って騒げなかったぶん、"ポッターをとった"って騒いだらいいわ」
「ハリー・ポッターがグリフィンドールに組分けられるという根拠は?」
「彼がハリー・ポッターだからよ」

確信に満ちた声で告げると、左右の双子はそっくりな顔で同じように肩をすくめる。
ハリーの組分けは全生徒が注目しているようで、順番が近づくにつれテーブル側も緊張が高まっていった。
ライジェルは片時もハリーから目を離さず、その様子を食い入るように見つめている。ハリーの緊張が伝わってくるようで、こくりと喉が鳴った。


「ポッター、ハリー!」


一瞬で大広間から音が消える。と言っても、囁き声は駆け巡っていたが…
グリフィンドールのテーブルも上級生たちが身を乗り出していたので、小さなライジェルは人影に邪魔されてハリーを見られなくなった。
組分け帽子は迷っているのか、すぐには決断を出さない。
20秒…30秒……
ライジェルが60秒を数えようかという頃に、割れんばかりの歓声がテーブルを包み込み、ハリーが呆然とこちらへ歩いてくる。
ウィーズリーの双子は約束通り「ポッターを取った!!」と声を高くし、二人の兄だという監督生のパーシー・ウィーズリーもハリーの手をがっしりと握っていた。
双子に両側をホールドされているライジェルに気がついたハリーは、ホッとしたようにその向かいの席に腰を下ろす。

「さっきははぐれちゃってごめん」

はにかんだような笑みを浮かべるハリーにきょとんとしながらも、ライジェルは「あなたが悪いわけではないわ」と返した。

「おじさまと同じグリフィンドールね。おめでとう」
「うん。その、ライジェルも」

そこで初めて、ハリーが彼なりに気を使って"気を使ってないそぶり"をしていることに気がついたライジェルは可笑しそうに声をあげて笑うと、肩にかかる黒髪を払い自信に満ちたような顔で言った。

「当然よ。私を誰だと思ってるの?」

二人は同時に吹き出し、テーブルごしにハイタッチを交わした。

「ハリー、ハグリットがあなたを見ているわ」
「ほんとだ。ダンブルドアもいる…」
「当たり前じゃない」

真っ青な顔をしたロンが呼ばれるとハリーは手を組んで祈り、ライジェルは半目で組分けを見ていた。
グリフィンドール、と帽子が叫ぶとロンは直ぐ様こちらに小走りで向かってきてハリーの隣に崩れ落ちるように座る。
ハリーやパーシーがロンを歓迎する中、ライジェルは頬杖をついてロンに言った。

「茶番だわ………」
「茶番じゃないよ!僕んちはみんなグリフィンドールなんだ!もし僕だけ別の寮だったらママになんて言われるか…」
「だから、一族みんなグリフィンドールなんだもの、グリフィンドールに決まってるじゃない。何ビクビクしてたのよ」
「代々スリザリンで純血主義の中でも一番ヤバい家の君がグリフィンドールに組分けられたんだから僕だってわからないだろ!」
「私はグリフィンドールに入れてってお願いしたんだもん。条件が違うわ」
「お願い?君あれをお願いって言った?」

ロンとライジェルの口論を遮るように上座で校長の挨拶が始まり、二人はぴたりと黙る……わけもなく、小声でそのじゃれあいは続いた。

「大体ブラック家ならもっとそれっぽくしててくれよ!うっかり仲良くしちゃったじゃないか!」
「あーら、じゃあ今後は私には近づかないつもりなのね!」
「そんなこと言ってない!まだちょっとしか一緒に過ごしてないけど…その…君が他の連中とはどこか違うんだってのはわかるし……」
「ブラック家なのに?」
「でもグリフィンドールに選ばれた」
「私の一族はみんな例のあの人の忠実なしもべなのに?」
「でもグリフィンドールに選ばれた!」


「いつまでやってるの?」

チキンをくわえたハリーが呆れたように口を挟む。
今度こそぴたりと黙った二人はハリーに差し出されたフレンチフライを受け取り素直に口に運ぶ。

「ロンはもっと素直になりなよ。ライジェルも、そんなに念押ししなくたって大丈夫さ。僕に君の家のことを教えてくれたとき、ロンはしきりに"でもライジェルは"って言ってたんだから」

二人は気まずそうに目を合わせると、どちらからともなく身を乗り出して手を伸ばし、握手を交わした。


*


しばらく談笑しながらの食事が続いた。
ふたたびダンブルドアが立ち上がったところで、広間はシン…と静まる。
いくつかの連絡や注意を終えると、「蛇足じゃがの、」と前置きし、ぱちりとライジェルに視線を向けた。
つられるように大広間中の視線が向けられ、ライジェルは居心地が悪そうにみじろぐ。

「このたびグリフィンドールに選ばれた新入生のミス・ブラックに色々と懸念している者も多いようじゃが、彼女は闇祓い省のもとで育った君らの同朋、何も心配はいらぬ」

余計なことを、とライジェルは内心毒づいた。好奇へ色を変えた視線が四方から突き刺さる。
校歌が始まるとそれは霧散したが、今後質問攻めに合うことは免れないだろうと確信が持てる。
メヌエットに乗せて校歌を歌い終わったライジェルは双子の熱唱に腹を抱えて笑い、憂鬱な気持ちを誤魔化した。



*


監督生に案内され辿り着いた寮の談話室から階段を上り、ライジェルは自分の部屋を探す。七年間同室となるルームメイトは二人しか居らず、どうやら五人部屋を三人で使うことになるらしい。
眠気がピークだったのか、自己紹介もそこそこに各々ベッドに沈み込むと、すぐに部屋は微かな寝息だけが響く空間になった。
赤いビロードのカーテンを下ろしたベッドに腰かけたライジェルは、ガーネットのピアスに触れながら手慰みに杖を振る。ぽぽん、と花が降った。





「……ええ………無事グリフィンドールに組分けられました。はい…抜かりなく……ハリー・ポッターの信用は得られているようです。お任せください。必ずや………」



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