05/03の日記
00:04
変恋5
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あれから、更に二階堂さんのことを目で追うようになった。ただ、近寄ることはない。逆もまた然り。二階堂さんに近づくと、なんか…こう…胸の辺りがおかしくなる。なので二階堂さんを見かけては逃げ遠くから観察するという不審者紛いな行動を続けているわけなんだけど…。
「それで、話してくれるよね、翼ちゃん?」
「…ウィッス」
なぜか壮五の部屋にお呼び出し食らった。壮五と三月さんに。
「ここんとこ、様子がおかしいぞ。また大和さんに何かされたのか?」
「されたような、されてないような…」
「さっさと言わないとキムチ口にぶちこむよ?」
「鬼ぃ!!」
そう言う壮五の目はいたって本気で。見た目大人しそうなくせしてやることは過激なんだからこの子…。私辛いのダメなのに…。そもそもなんでこのふたりに呼び出されてんだ私…。
壮五に脅迫され涙を浮かべていると、三月さんが優しく何があったのか教えてくれた。
「あのな、最近大和さんが元気ないんだよ」
「二階堂さんが?」
「そうそう。で、大和さんが翼見て話しかけようとしたら猛ダッシュで逃げてくからさ」
大和さん、落ち込んでたぜ。話ぐらいは聞いてやってくれよ。
眉尻を下げてそう言う三月さん。それは嘘には思えなくて。
二階堂さんが落ち込んでる? 私の行動のせいで?
「でも、翼ちゃんがそんな行動をとるのにもきっと訳があると思う。だから、話してほしいんだ」
ふたりの力になりたい。そう壮五に言われ、少し、話してみようかと言う気になった。
「あの…最近二階堂さんを見かけると胸が苦しくなると言いますか、」
「え、翼ちゃん大和さんのこと好きなの?」
「そんな直球ぶっこんでくんじゃねえよおおおおおお!」
くっそ数秒前の感動を返せ。それとも壮五に相談した私が間違いだったのか。ほんとこいつ私には容赦ねえよ。
ほんとは薄々自分でも分かってたよ。そんな子供じゃないし。分かってたけど認めたくなかったんだよ。認めちゃったら、
「辛くなるじゃんかぁ…」
じわりと、目頭が熱くなる。だって、だって。私はただの事務員で、あの人はアイドルで。売り出し中のアイドルを好きになるとか、事務員としては完全にアウトじゃんか。
「それにいつも意地悪するし、セクハラするし。からかわれてるだけなの分かってるし」
「いや、それは…」
三月さんがなにか言ってたけどよく聞き取れなかった。ぐしぐし。なんか目から落ちてくるし。鼻までずびずびいうし。もう嫌だ。
「いっそのこと、このまま嫌いになってくれれば」
「なんねえよ」
「へ」
あれ、おかしいな。今いるのは壮五の部屋で、この部屋には私と壮五と三月さんしかいないはずで。今まったく違う人の声が聞こえた気がしたんだけど。
驚いて顔を上げると、目の前に眼鏡のお兄さん。
「に、ににににににに!?」
「に?」
「二階堂さん!?」
「はい、正解」
目の前でにっ、と笑うのは紛れもなく、話題の人物二階堂さんで。…てあれ、二階堂さん元気なんだけど。私二階堂さん落ち込んでるって聞いたはずなんだけど。あと近い。
ふと視線を動かすと、扉の向こうからこちらを覗く壮五と三月さん。ふたりの顔はなんだか申し訳なさげで。
「は、謀ったな!?」
「ごめん、翼っ」
「あとはごゆっくりv」
パタン。扉が閉められ、ふたりがログアウトした。最後に見た壮五の爽やかな笑顔はきっと一生忘れない。覚えてろよあの双葉。けど、今はそれより。
「あの、二階堂さん」
「ん?」
「退いていただけないでしょうか」
二階堂さんの顔がめちゃくちゃ近い。この前もそうだけど、この人すごいぐいぐい近づいてくる。もうまっすぐ見ることができなくて、手でガードしつつ顔を背けて抵抗している。
けどそんな抵抗も意味を成さなかったようで、手を取られ顎に手を添えられる。聞いたことあるぞ。あれだ、顎くいってやつだ。なにこれはずい。
「俺の顔、直視できないほど俺のこと好きなの?」
「だ、誰もそんなこと言ってないです」
「強情だな。俺はこんなにも翼のこと好きなのに」
え、と聞き返そうとして、それは声にならなかった。
口に柔らかい感触。目の前には二階堂さんのドアップ。
「ご馳走さま」
二階堂さんの顔が離れると、唇の感触もなくなる。今、何をされたのか。理解した途端身体中を熱が駆け巡る。
刹那、私がとった行動は
――右ストレート
「へんったい!!!」
5. 大人しいとなんだか寂し……気のせいでした!
バタバタと部屋を飛び出す私。
「…ぷ。顔真っ赤」
赤い顔のせいで全部ばれてるんだろうなってことは、知らないふり。
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