05/01の日記

15:46
変恋4
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「ほへー…」


事務所のソファーを占領しだらける昼。
仕事? してるしてる。ただ今は昼休憩中だからいいのだ。


「Oh…ツバサ、元気ないデス」

「翼さん、大丈夫?」


上から下から、私の顔を覗きこんでくるのは六弥ナギくんと七瀬陸くん。もう言わなくてもわかると思うが、アイドリッシュセブンのメンバー。特に、陸くんはセンターをしているすごい子。


「だいじょーぶだよー。ふたりともありがとー」

「具合悪いの?」

「そんなことないよー」

「では、悩みごとデスカ?」

「そ、んなことないよー」


ぎくりと体が反応する。正直者過ぎるだろ私。

悩みごと…ていうかなんというか。この前、二階堂さんにセクハラされても嫌じゃないと気づいてしまってから、考えるのは二階堂さんのことばかり。

あああなんでこんな考えちゃうかなー。もしかして二階堂さんの変態が移った?いや、だからってセクハラを喜んで受ける女にはなりたくないわ。

うあー、やめやめ。考えるのは止めよう。そういやこの子達今日はオフじゃなかったっけ?


「それより君たちなんで事務所に? 今日はお休みじゃなかったっけ?」

「はい! 実はナギと大和さんの出てたドラマ見て演技の勉強をしようって話してて…せっかくだからみんなで見たいなって…」

「Oh…今事務所には私しかいないんだぜ…」


DVDを手に話し出した陸くんだったが、語尾が段々と小さく弱くなっていく。

今日は一織くんと三月さんがバラエティー、環くんと壮五もmezzoとして収録行っちゃったし、二階堂さんはドラマの撮影。そしてそれぞれにマネージャーの紡ちゃんと大神さん、そしてお偉いさんへの挨拶に社長まで外に出ている。


今事務所にいるのは私たちだけなのだ。


「なら私たちだけで見ますか」

「いいですか…?」

「どうせ誰もいないし、音量ガンガン上げてシアター気分味わっちゃいましょう!」

「yes! いいですネ!」


そうして、3人でのドラマ観賞会が始まった。

ふたりが持ってきたのは、二階堂さんのドラマデビュー作。

ストーリーは教師と生徒の悲恋もので、二階堂さんはその教師役を熱演していた。


「そういや、二階堂さんのドラマまだ見てないや」

「そうなんですか?」

「見る暇なくって」

「ヤマト、名演技です。まるで別人のようです」

「ほう」


ふたりが絶賛するものだから私の中の期待値も高まっていく。いざ始まると、なるほど、確かに別人のよう…というか…


「(…知らない)」


テレビの向こうにいるのはよく見る顔のはずなのに、まったくの別人に見えてしまう。

二階堂さんの演技力がすごいのも確かだと思う。けど、私の知る二階堂さんは、


「(飄々としてて、お酒大好きな飲んだくれで、セクハラ親父で、)」


こんな、真剣な目で誰かを見つめる二階堂さんを、私は知らない。


気がつけばドラマも終わりに近づいていて。教師と生徒の切ない抱擁シーンになぜか胸が苦しくなる。なんだ、二階堂さんもやるときはやるんじゃん。普段あんなんなくせに。所詮、私は、


「遊ばれてたのかな…」

「何が?」


テレビから流れる大音量のエンディング。耳元で囁かれた声はその音にも負けず私に届いた。

――瞬間、ソファーから転げ落ちた。


「ツバサ!?」

「な、ななななな」

「お前さんら、こんな暗がりで何してんのかと思ったら…」

「あれ、大和さん!?」


どうしてここに。みんな開いた口が塞がらないといった様子で、そんな中二階堂さんはテレビの音量を元に戻しついでに閉めきっていたカーテンを開けていく。


「向こうの都合で早く終わってな。報告しに事務所寄ったらなんか暗いしやたらでかい音聞こえるし。で、何してたの」

「えっと、ドラマの観賞会?」

「それ前もやってただろ…。で、そこのおねーさんはどうしたの」

「え」

「明らかに元気ないでしょ。何かあった?」


転げ落ちた体勢のまま、呆然としていると二階堂さんが目の前に来ていて。

驚いて後ろに下がるもじりじりと距離を詰めてくる。にやにやと嫌な笑顔付きで。おい、こいつ本当にさっきのドラマに出てた二階堂大和かよ。

そんな無言の攻防は、私がタンスにぶつかったことで終わりを迎える。


「えーと、二階堂さん?」

「ん?」

「退いてほしーなー…?」

「やーだなー」


とんっ、と顔の横に手をつかれ完全に逃げ道が絶たれる。あれだ、壁ドン状態。しかし誰だよ壁ドンをロマンだとか言った奴。恐怖でしかないよ。二階堂さんの後ろの方で陸くんとナギくんが慌ててるのが見えた。

怖くなって、思わず目を閉じる。ふと二階堂さんの動きが止まった気がして、もう一度ゆっくりと目を開く。


「あの〜、二階堂さん?」

「…ほんっと、お前さぁ」

「へ、へい」




「そんなかわいい反応すんなよ…本気で食べちまうぞ」

「〜〜〜っ!?」


耳元で囁かれた言葉。




反射的に、




私の右手が火を吹いた。




食べちゃうぞが冗談に聞こえません


(いっってぇ!?)
(大和さん!?)
(滅びろ変態っ!!!)

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