吸血鬼伝説

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声に誘われ、空き教室で足を止める。
そこからまた微かな声で「おいで」と自分を呼ぶ。
なんのためらいもせず、シリウスはその扉を開けた。


「やっと来た」


そう言って空き教室の窓際に腰掛けている少年がシリウスを見た。

綺麗な紅い髪の毛は月の光に輝いてキラキラと光っていて、影の関係で顔は見えない。

そして少年を見つめるシリウスの目は焦点が合っていなかった。
まるで操られているかの様に静かだった。

少年の口は弧を描き、ちょいちょいとシリウスに手招きをした。
また「おいで」と言うと、おぼつかない足取りでシリウスは黙って少年に近づいた。
そう、この少年こそがさっきの美しい唄を歌っていた人物だったのだ。

その声はなんとも心地よかった。
シリウスは酔いしれているのか少年に近づくとそっと抱きしめた。


「ふふ、いい子だね」


ふわりと少年はシリウスの背中に腕を回して笑った。
少年の目の前にはシリウスの綺麗な肌の首筋。
また「ふふ」と笑うと、尖った少し長い八重歯をむき出しにした。



「とてもおいしそうだね」


かぱっと大きく口を開いて、容赦なくシリウスの首筋に歯を立てた
じわりとそこから血が滲む。
だが、シリウスはまったく反応を示さない。
普段の彼なら痛いと大きな声を上げて、犬の様に吼え、威嚇するだろう。
だが、シリウスの顔は痛みで歪むこともなく、ただ焦点の合わない目でどこかを見ていた。

少年は噛んだ首元から血を吸っていた。とてもとても上機嫌な様子で。
しばらくすると、少年は口を離し、また少し出てくる血を真っ赤な舌でペロリと舐めた。
すると、不思議なことにあれだけ出ていた血がピタリと止まった。


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