Long Story

□闇の錬金術師 序章 動き出した闇
1ページ/5ページ

新月の晩、星の光さえない闇に佇む者がいた。それは闇よりもなお暗く、深い陰を落とし存在していた。

「大佐。全ての準備が整いました」

一人の兵士が暗き陰に敬礼し、報告をする。しかし返事は返らず、辺りに静寂だけが流れる。

「…ご苦労。そのまま、合図があるまで待機していろ」

長く続いた沈黙を最初に破ったのは、闇の中から発せられた声であった。兵士はその声に向かって敬礼し、踵を返した。

「…大佐。返事くらいしてあげたらどうです?彼、困ってましたよ」

兵士が遠く離れたのを見計らって声は闇を諌める。だが、その声は“仕方のない人だ”と言って微かに笑う。

「…ゲイン中佐。任務は完了したのか?」

不機嫌そうに闇から発せられた声は低く、暗い響きを含む。だが、ゲインと呼ばれた声は愉しげに口を開く。

「そんなに拗ねないで下さいよ。貴方の為なんですから。それと、任務は大方片付きましたが残念ながら貴方の希望した人物はいませんでした」
「…まだ、見つからないか」

その落胆した呟きにゲインは苦笑する。

「貴方の理想が高いんですよ。それに、今の軍にいると思いますか?」
「………」

沈黙する闇に溜め息を吐き、ゲインは小さく呟く。

「…こんなとき、ライズ大尉がいてくれたら助かるのですが」
「言うな!奴は、我等を裏切った」

明らかに動揺しているのを感じ、ゲインは口を歪めて嘲笑う。

「何故です?彼は、そこら辺の木偶よりも優れていました。彼を懐かしく思うのは当たり前でしょう?」

“それに”と、ゲインは笑みを消して闇を見据えた。

「此処にいたのは彼の意思ではなく、貴方の“力”に逆らえなかったからでしょう」

そう言ってまた微笑み“違いますか?”と、問いかける。闇は鋭い殺気を放ち始めたが、ゲインは臆さずに先程と変わらぬ表情で微笑んでいる。

「…まぁ、貴方が彼に執着する気持ちは解りますけどね」

不意に、哀愁を浮かべゲインは呟く。闇は殺気を収めゲインを一瞥し、静かに闇に溶け消えた。
残されたゲインが闇を見据えて暗い笑みを溢したとき、一陣の風が吹き抜け木々がざわめく。
風が止んだとき、あとには静寂に包まれた闇が広がっていた。











序章 動き出した闇











.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ