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□序章―ハジマリの詩―
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少女は儚く、美しかった。

そして同時に、脆かった。

才があった。
名声も、それなりにあった。

しかし、姉には勝てなかった。


親の愛も、姉はその身に一心に受けていた。

出来の悪い妹にも、情け慈悲を懸けてやっていた。

……優しい、優しい、…
理想的で完璧な、姉。


嫌いである筈がなかった。

多少の嫉妬や嫉み、羨望等はあったが、『その程度か…』と嘲笑える程だった。

しかし、自分の命よりも尊き命を、彼女は自らの手に掛けてしまったのだ。


好きだった、のに……


何よりも愛されるべき存在だったのに……


自分なんかと較べる必要もないくらいに、大切にされるべきだったのに……





そして涙が、ハラリと落ちてくる。


「…ははっ、まだ私にも、涙なんて出たんだ……」


そう言いつつも、少女はそれを拭う仕草は見せない。

足を三角に畳んで、この場から見える月を、ただひたすらに眺めるだけだった。



月はやっぱり、自分を光々と照らすし…

そんな月を、嫌いだとも思う。

……ただ、今日の月だけはひどく優しくて

……少しだけ、好きになった気がしたのだった。



『…京野。』

そんな事を考えていると、月が話し掛けてきた。

「…なに。」

少女はそれに対して、ぶっきらぼうに言葉を返す。

『君に、僕の力を授けよう。』

「…私に?」

少女は、月の言葉に眉をしかめた。

『…あぁ、君にだよ。京野。』

「……どうして、私に?」

私は心の中で、あんなに貴方を貶したのに……

今更力を貰える訳がないじゃないか。

と、少女は思った。


そして月は、それに気付いて…

『君は夢野よりも、もっともっと才がある。
…それに。

愛されるんだよ、君は。
運命はそう、決まってる。』

「………嘘を言うな。」

高らかに述べた月は、明らかに不機嫌になった少女をジィッ、とみつめた。


「………なに」


先程と同じ言葉なのに、妙に刺が含まれている。

そんな少女の様子に、月は苦笑を漏らした。


『……好きだよ、京野。
愛してるんだ。』

「……そう。」

月の愛は、まだ、紡がれ続ける。

『…君のその、美しく透けるような紅色の髪も。
麗しい燃えるようなその紅蓮の瞳も……。』

「……そう。」




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