長編

□もゆるつき 参
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未だ楽しげな笑みを隠せない保憲に、博雅は深く頭を下げた。
「お世話をおかけいたしました…」
「いや、晴明へのお節介は私の楽しみでございますから。お役に立てたのならようございました。」
「しかし、恋沙汰など…」
申し訳なさそうに言う博雅の頬を保憲の骨張った手が滑る。
まるで、博雅が泣いているとき、いつも晴明がするように。
「さぁ、お顔をしゃんとなさって。折角無傷でお連れしても、私が泣かせたなどと言われてはたまったもんじゃあございませんからねぇ。」
それと、と。
すっかり拭い取ってから、保憲はまたにやりとする。
「あまり晴明を泣かせませぬよう…次にこのようなことがあれば、あれが祟らずとも、私が末代まで祟りましょうぞ。」
そうして、軽く印を切るような真似をしてみせたので、博雅はごくりと息を呑む。
「冗談です。ただ、敵は多し、ということですよ。ではそろそろ。」
「あ、あの!」
すぐにでも猫又を走らせようとする保憲を、博雅は慌てて引き止めた。
「もう泣かせませぬ!独りにしたりしませぬ!必ず!」
「その言葉、晴明に言うてやってくださりませ…」
そう言って、保憲は駆けてゆく博雅を見送った。



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