長編

□もゆるつき 参
4ページ/5ページ

「そうなされませ。」
保憲は微笑していた。
「あれはなまじ頭が良いからか、意地が強くてなりませぬ。晴明がしたことは、世間一般には許されぬことでしょうが、色々苦しい思いをしておりますのでね。自己防衛という奴なのでございますよ。博雅殿に三日も放っておかれて、顔には出しませぬが、寂しかったのでしょう。しかしあの晴明は、貴方様に“三日も逢えなくて寂しかった”などと姫君のように縋れる珠ではないのですよ。」
おわかりでしょう、と肩を叩く保憲に、博雅はこくりと頷いた。
「それだけわかってらっしゃれば充分です。猫又!」
保憲は庭でごろごろと日に当たっている黒い猫又を呼び付ける。
そして小さく呪を唱えると、仔猫ほどであった猫又が、虎ほどの大きさに変化した。
「博雅殿を晴明の屋敷へお連れしなさい。道草を食うでないぞ。」
虎のようであるのに、にゃお、と可愛らしく鳴き、博雅が乗りやすいよう背中を下げた。
「保憲殿…?」
「ご心配なさらず。そこらの武官どもよりずっと頼りになりまする。」
保憲は楽しそうににやりとする。
「晴明のところへ着いたときに、博雅殿が怪我でもなさっていたらあれに祟られますからなぁ。晴明に祟られては、私も死んでしまうかもしれませぬ。」
博雅殿も祟られませぬよう、とからかって面白がった。
「保憲殿!」
「はい、何でございましょう?」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ