長編

□もゆるつき 参
3ページ/5ページ

「晴明は、普通とは違うのですよ、博雅殿。」
そう言った保憲の目は笑っていなかった。
「その生まれゆえに、その美しさゆえに、他の誰よりも苦労して、ここまで生きてきたのです。覚えておりませぬか、初めて出会った頃の晴明を。」
「……」
忘れられるわけが無い。
あの頃の晴明はまるで別人だった。
何も信じない、氷のような目で、赤い唇ばかりが笑っていた。
見る者が怯んでしまうほどに、悲しい目をしていた。
「寂しいのです。」
「え…?」
「晴明は、あれで寂しがりなのですよ。」
保憲の声は優しかった。
しかし哀しそうな顔をしていた。
「ただ、素直ではないので、あのような態度をとっておりますがね。あれが信じておるのは、博雅殿だけです。」
「本当に…?」
「私は嘘を吐けぬ性分ですから。」
保憲の言葉に、博雅はすっかりうなだれてしまった。
「私は、晴明に酷いことを言ってしまいました…」
「ほぉ、何と?」
「軽蔑、するかもしれぬと…」
博雅は思い出して、ほろほろと涙した。
帰ろうとしたとき、晴明はあんなに寂しそうな顔をして袖を引いていたのに。
「晴明に、謝らねば…」
晴明が素直ではないことなど、当の昔にわかっていたというのに。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ