長編

□もゆるつき 参
2ページ/5ページ

賀茂保憲。
穀倉院別当の地位につく、陰陽師ではなかなかの出世株である。
また、賀茂忠行の長子で、晴明の兄弟子としても有名であった。
晴明とのこともあって、博雅ともすっかり顔馴染みだ。
「博雅殿、一体どうなさったのです?お顔が優れませぬなぁ。晴明に愛想つかされましたかな?」
がっはっはと豪快に笑う保憲とは対照的に、博雅の気は重かった。
「そのまさかです。」
「何と!」
冗談のつもりが事実だったらしいと気付き、保憲は目を丸くする。
「思い違いではございませぬか?」
「それなら良いのですが…」
はぁ、と溜め息を吐く博雅に、保憲は唯事ではないのだと思う。
「私で良ければ、相談に乗りましょうぞ。」
保憲は元気づけるよう笑って、ぽん、と博雅の肩を叩いた。

「晴明は、私のことを嫌いになってしまったのでしょうか。」
保憲は、自分の屋敷に博雅を招き入れ、人払いをしておいた。
「詳しく話してくださいませ。でなければ、さすがにこの保憲にもわかりませぬ。」
「はい…」
博雅は、先程のことを小さな声で語った。
「――というわけなのです。私も確かに悪いことをしてしまったと反省しております。しかし、あんまりではありませぬか!私はこんなにも晴明を愛しておるのに!他の男に、躰を許すなど!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ