短篇

□風夢
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そんなちょっとした面倒ごとの帰りである。
久々に参内したのだし、折角だからそろそろ陰陽頭あたりに日頃の言い訳でもしなくては、ということで、晴明は陰陽寮に向かっていた。
その道すがら、何となく見覚えのある若い殿上人が三人ほどで話をしているのを見かけた。
よくある光景ではあるが、その内の一人を確認して、晴明は歩みを止める。
「博雅…」
他でもない、源博雅その人である。
何やら困ったように苦笑いする博雅に、近寄るわけにもいかず、だからといって好奇心からか知らない振りをして立ち去ることも出来ずに、晴明は茫然とその様子を眺めていた。
「博雅、お前また縁談を断ったのだそうだな。」
一人が呆れたように言った。
「あ、あぁ…まぁな。」
「またか!?贅沢だなぁ、お前も。確か大将殿の三番目の妹君だったよなぁ。」
「何だと?あの美人で有名な姫君をか。」
「ははは…」
友人二人から恨めしそうに睨まれて、博雅の笑みも引きつる。
しかし、相変わらず友人達からの鋭い言葉は続いた。
「しかも向こうはすっかりお前に惚れ込んでいらっしゃったそうではないか。それなのにお前ときたら…」
「勿体ない。通ってやればよいではないか。その内、情も湧いてくるだろうよ。」
無責任にもそんなことを言う友人達に、博雅はとんでもない、と首を振った。
「俺はそのような人の気持ちを弄ぶようなことは出来ぬ。」
「だからって、無下に断るのもどうかと思うがなぁ。」
「なぁ。」
二人は当然だとでも言うように声を揃える。
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