短篇

□迷い子
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「それで…結局この子供は何なのだ。」
博雅は晴明のあの態度にうんざりとした様子で、はやく話を切り替えようと思ったらしい。
「あぁ、紹介せねばなるまいな。」
晴明はそんな博雅に何を言うでもなく、隣に座する少年に目線を移す。
「白太丸、源博雅様だ。ご挨拶なさい。」
白太丸と呼ばれた少年は、はい、とよく響く声で返事をし、博雅に深々と頭を下げた。
「白太丸と申します。昨日より、晴明様にここに置いて貰うております。どうぞ、よろしくお願い致しまする。」
「いや、こちらこそ…」
あまりに丁寧に挨拶をされて、博雅も思わず頭を下げてしまった。
よく躾けられた子だ、と博雅はすっかり感心していた。
「立派な子だな、白太丸は…この年で、これほどよくできた子は見たことがない。」
「博雅様のお褒めに預かり、光栄でございます。」
白太丸はまた丁寧に頭を下げ、酒のご用意をさせて頂きます、と言って、すっ、と静かにいなくなってしまった。
「いい子だろう。」
二人になった濡れ縁で、晴明はくす、と小さく笑った。
その笑みが妙に意味ありげなので、博雅はまさか、と思う。
「まさか、お前のあたらしい式ではないよな。」
だとしたら、あの妙にしっかりした様子も、晴明にどことなく似た美しい顔立ちも頷けると言うものだ。
しかし、晴明は
「はぁ?そんなわけがあるか。」
と、さも不快そうな様子である。
「昨日、蜜虫が見つけたのだ。」
「蜜虫が?」
ここで蜜虫の名が出ようとは夢にも思わず、博雅は晴明に素っ頓狂な声で聞き返す。
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