短篇

□時重ね
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「な、何を言うか!お前があっさりしすぎておるのだ!」
「俺が未だ十代だったらな。」
博雅がいくら大きな声で訴えても、晴明は鼻で笑うだけである。
「俺もおまえもいい歳だろ。そろそろ酸いも甘いも噛み分ける頃なのではないか。世間知らずの博雅様?」
「そこまで言わなくともいいじゃないか。」
晴明の悪戯な嫌味に、博雅はむっ、と口を尖らす。
「少し、思い出に浸っておっただけなのに、どうして世間知らずとか、そこまで言われねばならぬのだ。」
博雅は、先程晴明に茶々を入れられるまでずっと、しんみりと昔を振り返っていたのだ。
真面目に話しているのに笑われたり、何もしていないつもりなのに怒られたりと、踏んだり蹴ったりだったような気もするが、いつだったか、保憲に、晴明のあの鉄仮面を簡単にお崩しになるなんてさすが博雅様ですね、と変な誉められ方をしたことがある。
博雅が、何故そのようなことを、と尋ねると、晴明があんなに心から笑ったり怒ったり泣いたりするのを見るようになったのは、博雅様にお会いしてからです、と苦笑混じりに言われたのだった。
それ以来、「思い出」というものが博雅にとってかなり大切なものになっていた。
だから、晴明邸でいつものごとく春を迎えて、あぁ、これは何度目だったかなぁと物思いに耽るのは当然の流れなのだ。
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