短篇

□はるやはる
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「晴明、今日は指先がいつもより赤くないか。」
「そうか?」
上に向けられた瓶子の酒が、とぷん、と音をたてる。
「手を見せてみろ、晴明。」
「っ待て、博雅…!」
博雅がいきなり晴明の右手を掴もうとしたことで、その手によって支えられていた瓶子は重力に逆らえなくなり、がしゃん、と哀しくも盛大に庭の土の上で割れてしまった。
酒がじわじわと地に染み渡るのが、確かに感じられる。
「ばか。お前の所為で、酒が無駄になったじゃないか。」
「…やっぱり。」
「は?」
晴明の文句も気にせず、博雅はそっと晴明の手を握って、妙に納得したような顔をしていた。
「お前、手が熱い。」
そう言うと今度は、空いているほうの手で晴明の狭い額を覆う。
暖かくて大きな博雅の手が心地よくて、晴明はゆっくりと目を瞑ると、おとなしくそれに浸っていた。
「熱があるな。」
博雅はそう呟いたが、晴明はそんなはずはない、と小さく首を横に振る。
風邪を引いているなんて、そんな感じは全く無かったのだ。
ただ、今朝は少しだけ寒気がした。
外気がいつもより肌寒かった。
寝起きがほんのちょっとだけつらかった。
本当にそのくらいしか違わない。
熱いのは、博雅の手じゃないか。
そんな気さえした。
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