短篇

□朱に染まる。
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俺と会う暇はないのに、そんな輩と遊ぶ時間はあるのかと思うと、悔しくて、哀しくて、恨めしかった。
自分が言っていることが我儘だということも、博雅には人付き合いも仕事のうちなのだということも、晴明は重々承知している。
だからこそ、昼間に当然のように博雅を独占できる彼らが、憎らしくて、羨ましいのだった。

「急に、腹が立った…」

はい。

「別に、博雅は悪くないのに…」

そういうこともございます。晴明様が悪いのではありませんよ。

「本当か、それは…」

はい、晴明様は博雅様が大好きだというだけですわ。

風のくすくす笑う声がして、晴明はかっ、と赤くなった。
「何故そうなるのだ、馬鹿…っ!」
あら、私は間違っておりませんわ。
風が笑うのにつられて、木々も草花もその葉を揺らし出す。
庭の全てに笑われて、晴明はますます頬を染めた。
「わ、笑うな!俺は別に嫉妬など…」
嫉妬?私、晴明様が嫉妬を妬いてらっしゃるなんて申しましたかしら。
申しませんわ。
申しませんでしたわねぇ。
からかうように声を揃えて笑う、風に、庭の草花に、流れる水に、晴明はすっかり機嫌を損ねてしまった。

まぁ、ご機嫌を損ねてしまったわ。
やりすぎたかしら。
でも私、晴明様を見ると意地悪しないではいられないんですもの。
そうよねぇ、あまりに意地らしくてねぇ。
可愛らしくてねぇ。
博雅様のこととなると、急にむきになられるから。

そんな自然の精達の内緒話が晴明に聞こえていたかどうかはわからないが、晴明は机に突っ伏して、相変わらず赤い顔を腕のなかに埋めていた。
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