短篇

□宵狂い
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『気持ちいいか?』
頭のなかで博雅の暖かい声が鳴り響く。
「あ、いぃっ、っあ、やっ!」
『ここは?』
「…ひあっ!」
いつも博雅がするように指は勝手気儘に晴明の体を這う。
自身を握っていない方の手の指が、赤い熟れた胸を摘んで、もっと狂え、と促した。
にもかかわらず、だ。
「え、やっ、へん…ん、あ…!」
息が上がるほどの愛撫を施しているのに、晴明はなかなか絶頂に向かうことができないでいた。
こんなにも熱くて苦しいのに、
こんなにも濡れて乱れているのに、
いつもの沸き上がるようなものが、無い。
もう晴明は泣きたいくらいだった。
これでは自分がやっていることの意味が無い。
時間が長くなればなるほど見つかる危険が高くなる。
「ひろまさぁ、あ、うっ!」
晴明がまた甘えるようにその名を呼んだときである。
「晴明、ここにおるのか?」
晴明は自分を呼ぶ声にはっとした。
紛れもなくそれは博雅のものだ。
しかも現実の。
「晴明?」
晴明が慌てて着物で裸体を隠すのとほぼ同時に、驚いた顔の博雅が几帳のなかを覗き込んでいた。
「ひろ、まさ…」
「どうしたんだ、一体…」
博雅はただただ晴明の姿に唖然とした。
体に辛うじてかかっているだけの着物。
紅潮した頬。
潤んだ瞳。
震える指先。
そして何より、濡れて起ち上がる晴明自身。
何をしていたかなんてすぐわかる。
しかし、ただ気付いたら寝所にいなかった晴明を探しにきただけの博雅に、この光景はあまりに衝撃的すぎた。
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