短篇

□宵狂い
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昔からその美しい容姿と可愛くない性格のおかげで、結構な頻度で夜伽の相手をさせられていた。
今は今で博雅という恋人がいる。
そういうわけで、もともとあまり性的欲求の強くない晴明は、自慰などしなくとも十分間に合っていたのだ。
しかし今はそういうわけにもいかない。
ましてや博雅を起こすわけにもいかず、晴明は途方に暮れていた。
とはいえ、やらないわけにもいかないと改めて決心し、少しだけ先端に触れてみた。
「ん…っ!」
すぐに声が出かけて晴明は慌てて口を閉じる。
「え…?」
信じられない。
触っているのは自分の手なのに。
博雅の手ではないのに。
「んっあ、あ、ぅあっ、やっ、あぁ!」
甘い声が飛び出る自分の口。
無意識のうちに強く擦っている自分の手。
変だ、と晴明は首を振った。
他人の手ではないのだから嫌ならやめればいいのに、どうしたって手は止まらない。
「や、んっ、あ!」
くちゅ、くちゅ、と小さな水音が晴明の髄を麻痺させいつもの冷静さを奪っていき、頭のなかではひっきりなしに色んなことが巡っていた。
先程博雅にされたことから、忘れていた遠い日の記憶まで。
嫌なことも良いことも、全てが頭に浮かんで、もうぐちゃぐちゃだ。
「ぅっ、あ…ひろ、まさ…あ!」
そんな訳のわからない状態で、口をついて出たのは、困った男の、愛している男の名だった。
ぐちゃぐちゃな自分を全て優しく包み込んでくれそうだったからか、それともたまたま浮かんだだけか。
どちらにしろ、理性のへったくれもない今の晴明にとって、心のなかの恋人に縋って甘えるのは意外にも簡単なことだった。
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