短篇

□宵狂い
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この男はどうしてこうなのだろう、と晴明は小さく唇を噛む。
恋人がこんなに困っているのに大口開けて寝ているのだ、こいつは。
彼が寝ている時でさえ、自分はこんなにも狂わされているにもかかわらず。
「どうにか、しないと…」
とにかくこんな姿を見られては駄目だ。
いつもより強引な博雅にはからずも感じていたなんて、恥ずかしくて情けなくて絶対に言えない。
そう思って晴明は立ち上がり、博雅に気付かれないようにこっそりと寝所を抜け出したのだった。

「ここなら…」
晴明が向かったのはいつもの濡れ縁の奥であった。
晴明の仕事場と化しているここは物が多く、隠れて何かするにはいいような気がしたからである。
晴明は几帳の陰にぺたん、と座ると恐る恐る着物を捲ってみた。
「っ、博雅の馬鹿…っ!」
そんな気はしていたが、まったくその通りで晴明は自分に呆れてしまった。
もう何もかも博雅のせいだ。
そうとでも思わないと、もっと自分が嫌いになりそうだった。
でも、なってしまったものはどうしようもなくて、晴明は単衣を半分肩に引っ掛けた状態まで脱いだ。
そこまでは良かった。
しかし。
「あ…」
起ち上がり始めている自身を前にして、晴明の手が止まる。
「こういう時、どうすればいいのか知らん…」
実は晴明は自慰というものを今まで生きてきてほとんどしたことがなかった。
いや、本当は全く無いかもしれない。
それというのも、晴明を取り巻く環境の所為である。
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