短篇

□宵惑い
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「だから、どうしてそういうことになるんだ。俺はそんなこと一度も…」
「言ってたんだ、陰陽寮の若い陰陽師たちが…」
「え…?」
ぼろぼろと涙を零し、目を真っ赤にして博雅は言った。
今日はたまたま陰陽寮の近くを通りかかったらしい。
すると、年若い陰陽師が二人、世間話をしているのが見えた。
見ない振りをして通り過ぎようとしたのだが、晴明様、という言葉が聞こえてきたのでつい立ち聞きしてしまったのだと言う。
『どうして晴明様は陰陽寮にいらっしゃらないのだろう?あの方にお会いするために陰陽寮に入ったのに。』
『俺だってそうさ。しかし噂では殿上人の源博雅様にすっかり惚れぬいていらっしゃって博雅様の頼みしか聞かぬというぞ。』
『あの楽狂いの?一体どうして。』
『さぁな。晴明様はとても頭が良くていらっしゃるから、博雅様のような勘だけで生きておられる方が珍しくて魅かれるのじゃないか?なぁに、そのうち飽きるに決まっているさ。』
『そうだな、その時は――』
そこまで聞いてあとはあまりのことに聞こえなくなってしまったらしい。
それで自棄酒を飲んだのか。
晴明はわからなかったことがわかってすっきりすると共に、心底呆れてしまった。
「あのなぁ…」
「どうなんだ、晴明。俺は飽きられてしまうのか…?嫌われてしまうのか…?」
尋ねてくる博雅の顔は不安を絵に描いたような表情で、晴明は小さくため息をついた。
さしずめ主人の帰りを待つ犬といったところか。
「連中の言うことを鵜呑みにしすぎだ、お前は。俺は別にお前のことをそんなふうに思ったことはないし、そんな馬鹿な理由で好きになったのでもない。だから絶対に飽きたり嫌ったりということはないから…その顔やめろ。」
「すまん。」
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