短篇

□宵惑い
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そして思えば、ここは路のど真ん中なのだ。
いくら夜中で人通りが少ないといっても、こんなところで、しかも誰のだか知らない邸の塀に寄り掛かりながら、するようなことではない。
しつこく舐められた耳は唾液と月明かりでてらてらと光っている。
いつのまにか晴明の手を押さえる手は一つになっていて、博雅の片手は空いていた。
「博雅、やめっ…」
着物の隙間からその手が入っていくのが見えて、さすがに晴明も身を捩った。
一体この男に何があったんだろう。
温和でお人好しな博雅には、たとえ酒が入っていてもこんなことは出来なかったはずだ。
こういうことに至るときはいつでも、嫌になるくらいに大丈夫かどうか尋ねてくる。
それなのに。
「ひろ、まさ…んぁ、やぁ…」
それなのに今日は、手首を捕まえて離してくれない。
嫌がって首を振ってもやめてくれない。
泣いて涙が頬を伝っても拭ってさえもくれない。
どうして、と聞きたいだけなのに、出てくるのは高い声と涙ばかり。
昔みたいだ、と晴明は思った。
今は愛している相手だから、大分状況は違うけれど。
「やっ、あっ、あぅっ!」
「せいめい…やっぱり、俺では、ひっく、駄目なのか?」
見れば博雅も泣いていた。
泣き上戸なのか、こいつ…と晴明は少し呆れながら思った。
しかし泣きが本格化した所為か、胸の辺りをいじる手もおとなしくなって、ほっと胸を撫で下ろす。
「おれでは、っく、役不足なのか…?」
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