短篇

□凛と鳴る。
4ページ/10ページ

自分が言ってしまっては、晴明にとっても博雅にとってもきっと今後の為にならない。
晴明が言わないことには意味がない。
『晴明も、難しいところがございますからねぇ。気長に待ってやってはいかがですか。』
それだけ言って、昨日は別れた。
「そんなことだからお前は人間関係がうまくいかんのだ。」
保憲はいきさつを適当に説明して、最後に鼻で笑った。
それが気に食わなかったのか、晴明はむっ、と眉根を寄せていた。
「博雅とはうまくいっております。」
「いっていたら博雅様が悩むわけがなかろうが。」
「それは―っ、……痛っ!」
抗議しようと身を乗り出した晴明の額を、保憲がぱちん、と指で弾く。
「ちゃんと言え、早く、絶対に。」
そう言う保憲は存外に真面目な顔をしていた。
「博雅様を悲しませるな、困らせるな。博雅様に嫌われて困るのはお前だろう。」
「き、嫌われたりなど…」
「例え嫌われなかったにしろ、このままだとあの方は自ら身を退くぞ。お前のことを思ってな。その時はお前が泣こうが喚こうが俺は慰めてやらんからそのつもりでいろ。」
保憲に一気にまくしたてられて、晴明はすっかりむくれてしまって折角の美顔が台無しである。
「お前は博雅様がおらねば駄目なんだろう?」
そんな晴明の肩を、ぽんと叩いて保憲が言った。
「俺も一応心配しているんだ。お前はすっかり博雅様を頼りきってしまっているようだし、もし上手くいかないようなことがあったら、死ぬとか呪うとか物騒なことを言いだしかねんからなぁ。」
「そのような馬鹿なことを言うわけございませんでしょう…」
「まぁ馬鹿を言うにしろ言わないにしろ、とにかく早く関係をはっきりさせておいた方がいいと思うがなぁ。折角あのような善い方を捕まえたのだから、みすみす逃すような真似はするな。」
保憲にそう忠告されたが、晴明は頷くわけでもなく反抗するでもなく、ただじっと俯いていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ