短篇

□恋す影
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「どうしてお前は大丈夫なんだ?」
「は?」
「だから、これだけ俺と親しい者が苦しんでいるのに、俺と一番親しいお前は何故そう平気でいられるのかと…」
あれだけ威勢よく喋っていた博雅が、突然口籠もった。
晴明がにやりとしているのが見えたからである。
「お前、俺と一番親しいのか。」
「――っ、だから何だっ!」
あれだけ体を重ねておいて何を今更、と博雅は毒づいてしまいたかった。
しかしそれを言ってしまえば、また晴明が笑みを濃くするだけである。
博雅はそう思い、顔を赤くしてぐっと堪える。
「いや、あの博雅様も惚気られるほど立派になったのだなぁと思ってなぁ。」
「本人に惚気る馬鹿がどこにいるんだ!」
相変わらず笑っている晴明に、折れるのはいつも自分だなぁと思いながらも、博雅は諦めた。
「笑ってばかりいないで何とかしてくれよ、晴明。」
「そう急くな。大体の見当は付いている。」
晴明はそう言うと、すぐに庭に目を向ける。
そうして蜜虫に何かを連れてくるように告げた。
「きっと門扉の辺りで入れずにうろうろしているからお迎えしてあげなさい。」
「承知いたしました。」
蜜虫は美しい顔を深々と下げて礼をすると、すっ、と門扉の方へ向かっていった。
「誰か来ていたのか?」
迷惑を掛けてしまっただろうかと、博雅は心配そうに尋ねる。
そんな博雅を見て、晴明はこれだからお人好しは、と頭を抱えていた。
「何を言う。話からすると、お前が連れて来たらしいではないか。」
「はぁ?」
「妙な気配がするとは思っていたが、まさかお前にくっついてきたとは驚きだな。」
これは鬼に憑かれるより質が悪い、と晴明は小さく舌を打った。
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