短篇

□恋す影
2ページ/12ページ

「何の話だ、一体」
「いいから見てくれ!晴明なら、そのくらい簡単だろう!?」
「それは、まぁ、そうだが…」
簡単といえば簡単だ。
しかし見ろと言われても、見るものが無いのではどうしようもない。
博雅から感じるのは、騙されやすそうで呆れるほど真っすぐな、いつもの博雅の気配だけである。
「憑いておらんな、何にも。」
「まさか、そんなはずはない!よく見たのか!?」
「よく見るも何も…」
無いものは無いのだ。
晴明はだんだん面倒になってきていた。
博雅が今日やってきた訳を知りたくないと言ったら嘘になるが、これだけしつこく尋ねられるとそれすらももうどうでも良くなってくる。
「何なんだ、お前は。憑いていると言ってほしいのか?」
「俺は憑いていないほうが良いが、憑いていないなら憑いていないで困るのだ!」
「はぁ?」
ますます意味不明だ。
晴明ははぁ、と一つため息を吐くと、
「わかるように話せ。」
と博雅に状況説明を促した。
「む、むぅ…」
博雅は小さく唸ると、ぽつりぽつりと話し始める。
「近頃、俺の周りで妙な事が起こるのだ。」
それはここ二、三週間くらいの話だと言う。
夕暮れや夜に、博雅が笛を吹いたり散歩をしたりするために外に出ると、何やら後ろからことり、ことり、と物音がするようになった。
それは博雅が走れば早くなり、足を止めればぴたりと止む。
よく聞けば、何かの足音のようである。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ