短篇

□始まり
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晴明は静かに答えた。
「出仕の時以外は、個人的に仕事を請けておりますが。」
「それは鬼退治とか、厄払いとかか?」
「そういったご依頼もございますし、占いなどもしております。その気になれば、他にも色々出来まするが…」
「ほう!」
博雅はすっかり楽しくなってしまった。
何ぞ、陰陽師とはなかなか面白そうな職種である。
気質柄、難しそうなことは苦手で、見ている限りは星を見たり暦を見たり、或いはよくわからない道具を回したり眺めたりして何やら面倒そうだったので、博雅は陰陽師というのにあまり関わり合いが無かった。
しかし不思議なことに、晴明が言うとそれがとても簡単なことをしているかのように聞こえる。
いや、きっと晴明のしていることは普通の陰陽師がしていることよりはずっと難しいことなのだろう。
それでも、晴明の話は面白い。
ということは、それだけ晴明が良く出来ているということだ。
「晴明殿は面白いな。」
こういう人と毎日話が出来たらどれだけ楽しいだろうと思うと、博雅はついつい顔が緩んでしまった。
「博雅様も、良い御方にございます。」
晴明もそう答えた。
博雅は例えそれが社交辞令であっても、やはり嬉しかったのである。
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