短篇

□始まり
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「そちらは?」
わかってはいたが、博雅は一応尋ねる。
「あぁ、この方は…」
尋ねられて、兼家は随分と得意そうであった。
「安倍晴明にござります、源博雅様。」
兼家が得意げに口を開いた瞬間に、代わりに答えたのはこの男、安倍晴明である。
人を化かすとか何とか言われているが、取り敢えず人をからかうのは得意なようだ、と博雅は思って笑ってしまった。
「博雅様のお噂はかねがね伺っております。」
「こちらこそ、晴明殿のお話は何度も…」
こちらに体を向け、もともと下げられていた頭をより深く下げた後、あげられた顔に博雅は思いがけず息を呑む。
それは美しい顔をしていた。
自分とは違い、色白で女と見間違うほど端正な顔立ちだった。
化粧をしているのかと思うほど唇は紅く、伏せられた目には妙に力がある。
兼家が可愛がるのも何となくだがわかった。
「見目も良いし、頭も良いし、礼儀も正しい。都中探しても、なかなかこれほどの男はおりませんぞ。」
兼家にしたら、誰にも見付けられない宝玉を手にしたような心地なのだろう。
これならば自慢したくなっても仕方ないかもしれない。
「晴明殿は普段はどちらに?内裏では見かけませんでしたが…」
「普段は自宅におります。出仕しますと人目があって何かと大変なもので、邸で静かにしていたほうが都合が良いのです。」
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