短篇

□恋綴り。
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「まぁ、いつも言われていることだったがな。安倍晴明は出仕しないくせに右大臣様や兼家様に可愛がられてずるい奴だとか、いいのは顔と体だけだとか、賀茂忠行も何故狐の仔を拾うたのだとかだったな。」
「ひどくないか、それは…」
「いい加減、言われ慣れたさ。」
気が滅入ってしまいそうになっている博雅とは反対に、晴明は笑っている。
別に自嘲とかではなく、普通の楽しそうな笑いである。
「こういう話で笑うなよ…」
「面白い話ではないか。俺が聞いているとも知らず、有りがちな悪口を大声で話していたのだぞ。」
相変わらず笑っている晴明に、博雅はすっかり呆れ返り、いいから続けてくれ、と促した。
晴明は頷くと、まだ笑みの残る口で話し始める。
「それでしばらく聞いていたんだが、初めて言われたことがあってな。」
「ほぉ。」
「安倍晴明が女だったら良かったと。」
それで最初の質問か、と博雅は思う。
「女であったら、もっと好かれておったのに、と言っていた。」
晴明はさっきよりずっと辛辣な表情をしていた。
「なぁ、博雅。」
晴明は博雅を見て、その手を握る。
「俺は、女に産まれたほうが良かったか?」
覗く瞳が、ゆらゆら揺れていた。
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