短篇

□下燃えの恋
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「俺にはお前の考えていることがさっぱりわからん…」
さっきまで不機嫌の固まりであったくせに、急に楽しげに自分を追い立てる晴明の心持ちなど博雅にはわかるわけもなく、ただ悪戯に晴明の妙に艶っぽい気ばかりが博雅の胸を高鳴らせる。
「言ったままだ。お前のさる姫君に送った歌の内容を教えてほしい、とそれだけではないか。何を困る必要がある。」
困る必要があるから言っているのだ、と言えるわけもない嫌味を心に浮かべながら、博雅は口を曲げる。
へたくそな歌の内容を教えるだけでも十分恥ずかしくて困っているのに、今は何故か晴明が抱きついているのだ。
あんなに綺麗な顔が傍にあっては、気が散ってしょうがないというものである。
「言うたら…言うたらどうする。」
「さぁ?それはわからん。」
お前次第だと言う晴明の笑顔だけは屈託がなくて、それが余計に博雅を困らせた。
「わ、わかった。言う、言えば良いんだろう。」
もうやけになって、博雅は言った。
「別に面白くないからな。」
そう念を押し、歌は変だから内容だけ言う、とさんざん断りを入れてから博雅は小さい声で言う。
「貴女の海のごとくに深い気持ちを受けることができて嬉しいけれども、私にはその海よりも深く深く愛している者がいて、貴女の気持ちを受けることが出来ません…と。」
恥ずかしさの余り俯いてしまった博雅に晴明はふっ、と微笑した。
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