短篇

□下燃えの恋
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「俺が?」
久しぶりにこちらに向けられた顔は機嫌が悪そうに歪んでいた。
「嫌だ。何で俺が。」
「いや、嫌ならいいんだ別に…」
博雅は困ったように笑って頭を掻く。
それを晴明はじっと見ていたのだが、突然。
「博雅、」
何か思いついたようににやりとして、自分の細い腕を、博雅の男らしい首に巻き付けた。
「何と言って断ったのだ?」
「へ?」
すぐそこに晴明の美しい相貌があるのに気付き、博雅は驚き、赤くなる。
「お前の歌の内容がわからんでは、さすがの俺も手助けのしようがないぞ。」
まさかそれも占えというのではあるまい、と晴明の紅の唇が耳元で囁く。
「早く言え、お前が頼んだんだろうが。」
「だってお前、さっき嫌だと…」
「気が変わった。」
何故そんなに飄々としていられるのだろう。
いけしゃあしゃあと言う晴明に、博雅は呆れるしかなかった。
「別に、大したことは書いておらん…」
そう言って近寄ってくる晴明を振り払おうと少し後退るのだが、その度に晴明もついてくるのでどうしようもなく、結果的にごつん、と後頭部を柱にぶつけてしまった。
「追い詰められたな。」
そう言う晴明は何故か実に楽しそうで、先程とは打って変わって艶っぽい笑みを博雅に向けている。
「言え、博雅。」
常の穏やかな声音に幾分かの凄味を含ませて、晴明はより強く博雅に言った。
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